夏の終り、、長くなった陽射しが百日紅の影を網戸に写している。 止まった時間の中で、やわらかな光の斑点がチラチラ揺れる。 おまえがまだ若木だった頃、私達はこの家に越してきた。 小学生の子供達に「百日紅」の名前を教えようと、私は「千日紅」の鉢を買い、どちらが長く咲くかと面白がって見守った。 百日紅は百日を越えて咲き続け、11月半ばに突然散り出すのだ。 バラバラと落ちた黄ばんだ葉が重なり、庭に樹木のにおいが漂う。 そして暮れ、、、焦げ茶色に枯れきった枝を落としてお正月の準備をする。
昨今、東京の冬は、雪の積もることはめったにないものの、厳しい寒さが続く。 百日紅は雪まじりの雨の中、瘤だらけの杭のようになって耐える。 恐らく幹の芯まで冷え切っているのだろう。 他の形のよい落葉樹に比べ、冬の姿があまりに不格好なので、可哀相にも思うのだが、翌年の晩春、強靱な芽が吹いてくるのだ。
それからはすごい、、、1年の半分が既に過ぎようとしていることを、周囲に知らしめ、お前は何程の仕事をしたのか、と問いかけるがごとく、どんどん伸びて華やかな花を咲かせる。 こちらも急かれる思いで仕事をする。
夏の終り、こうして百日紅の樹影を見ていると、長い年月、樹木にも喜びや苦しみがあったのではないだろうか、と思えてくる。 密かな喜びに小躍りしたり、無念の思いを噛み締めて耐えたり、、何回も樹皮を剥いで、その度に生まれ変わり、いつの間にか、それなしには庭の落ち着きが得られないほど風景に収まってしまった。 私は自分の喜びや苦しみから何を学び、それをどう育てて今に至っているのだろう。
ミソハギ科、百日紅、別名ヒメシャラ、、、
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