一年のうちで最も好きな季節は、晩秋から初冬に至るこの時期だ。 「野分き」から「木枯らし」と呼び名を変えて、独特の風が吹く。 この風によって秋の雲は流れ、枯葉は吹き散り、落葉樹は裸木になる。 この季節が好きなのは、この風と「線」だけになった樹木たちのせいだ。
風と樹木に会いたくて、これまで帯広平野やポーランドの雪原へ、訪ねた時期はいつも冬だった。 枝の間を風がかすかな音をたてて通り抜ける。 どこから来たのかと空を見上げる。 遠くからはるばると渡ってきたような風に出会うと、身体中が浄化されるようで、気持ちが大きくなる。 「颯爽」という言葉に「風」の字が入っているが、とどのつまり、私は吹っ切れて爽やか、かつ勇ましい人になりたいのだ。
海のそばに住んでいた人なら、風は波と結びついているだろうが、私はいつも川のそばに住んできた。川面はさざ波立つことはあっても、うねることはなかった。 うねっていたのは群生のススキ。 強風の中で、銀の穂が左右に揺れる様子を飽きずに眺めていた。 もっと吹け、もっと吹け、、、と、思っていた。
今も秋に一度は、風の強い日を選んで川に出る。 ススキというのは動きに美しさがあるので、描くのは難しい。 一瞬のきらめきを捕らえた写真にかなうはずもない、と、あきらめてはいても、その光と影の交差を見たくて探しにいく。 ススキを見ながら風を見ている。
身体が冷えきった帰り道、ふと、福島泰樹の歌を思い出す。
淋しくてならねば「野分酒場」まで転がって来い風に吹かれて (茫漠山日誌・壱)
「野分酒場」か、、、いいなあ、男の人は、、、独りで飲んでサマになる。 そう思いながら、そそくさと帰り、紅茶を飲んで、、、私はまた描くしかない。
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