初冬の暖かい日には、ふと、子供の頃、母がよく蒲団を作っていたことを思い出す。 その頃の庶民の家庭には、まだ羽蒲団などというものはなく、冬の蒲団と言えば、「木棉わた」が当り前だった。 古いわたを蒲団屋に頼んで打ち直し、それが薄く積まれて戻ってくると、母は決まって近所のおばあさんに来てもらうのだった。
朝から二人は縁側に座って、世間話をしながら蒲団の側(かわ)を縫う。 表には、大抵、母の古い着物が使われて、違った柄があちこち縫い合わせてあった。 「わた埃を吸うから、あっち行ってらっしゃい。」と言われながら、私は縁側の隅に座って、二人の話を聞いていた。 おばあさんが、お嫁さんに遠慮しいしい暮らしている話をしたり、母が、引揚げの時死んだ、姉の話をしたり、、、そのうちに、いつの間にか蒲団の側は縫い上がるのだった。
夕方、それを座敷に広げて、薄いわたを、慎重に、均等に、広げてゆく。 すると座敷は、雲が降りてきたような、非日常的空間に変わるのだった。 そして二人は、縁だけに、更に、わたを重ねて厚くすると、四隅を持って、掛け声と共にひっくり返す。 すると手品のように蒲団が出現する。 大きく膨らんだ、出来立ての蒲団を、わたが動かないように長い蒲団針で綴じてゆく。
朝から夕方まで一日がかりで仕上げる、その行程は、大人たちにはせわしいものであったろうが、子供の私には、時間がゆっくり流れていた証しとして、忘れることができない。 今では家庭で蒲団を作ることもないし、蒲団自体も、重いものより軽いものが好まれる。しかし、あの座敷の光景が甦るせいか、私は、重くて暖かい冬蒲団に潜りこみたくなることがある。
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