「具沢山のスープ」

もう半年前になる。引越した翌日、まだ家の中に段ボールが積み上げてあった。近くのスーパーで材料を揃え、まず、大鍋一杯のスープを作った。やり方はだんだん簡単になり、正式なものではないと思う。
にんにくを刻み、玉ねぎを少し丁寧に炒め、ローストした肉と一緒にして、水とブイヨンをぶち込む。じゃが芋、人参、セロリ、ローリエと共にコトコト煮るだけ、、、もちろんアクはとる。お酒を入れ、味つけをしたら、仕上げに茹でたブロッコリーを入れて、パセリをふる。
誰でも作る、このようなスープを、これまで何度作ってきたことか、、、飲むとお腹がほっとして、とりあえずの体制ができる。引越しの時も、「3トン積みのトラック5台分の荷物、、、ということは15トンかぁ、、、」と、あきれながら段ボールを開け始め、接着剤で手をガサガサにしつつも開け続けた。そして、このスープを飲み続けた。肉と野菜のエキスが緊張した身体に染み渡り、「大丈夫、ここでもやれる。」と思った。
世の中には、それこそ大変な重荷を背負っている方もいらっしゃるから、私の状況など大したことはない。しかし、人にはそれぞれ、その重さが本人にしか分からない荷物もあるのだ。夕暮れの闇が深くなる時、食堂の椅子に何時間も座っていることに気づいて、愕然としたことがある。そんな時、私はのろのろと具沢山のスープを作り始める。
若い時、人は自分の限界になかなか気づかないものだ。年をとるにつれ、自分の体力、経済力、能力の限界に突き当たる。克服できるのなら「限界」とは言わない。どうしようもない、と思い知り、それからが次の段階だ。では、その中でどうする?体力、経済力、能力がなかったために、一層見えてくるものはないか、出会える人はいないか。どんな経験にも、まったく別の側面はあるから、現在の「意気沮喪状態」を脱し、いわゆる「最善のことをする勇気」を持たねばならない。だから具沢山のスープを食べる。
梅雨の時期、あなたもスープを作りませんか?

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