閉ざされたアトリエ

閉ざされたアトリエ
                             
呪文は「花に毒薬、姫にヘビ」
 助けに参りました姫、私は隣国の王子、名はヘビと申す者です
 こんな閉ざされたアトリエで、貴女は何を描くのでしょう
 こんな光も射さない暗闇で貴女は何を描けるのでしょう
 家老の者たちが外の世界を遮断したのですね
 姫、私は外界の美しい色をしたものたちを知っています
 私は地を這う者です
 姫、貴女に足りないのは色です
 花には水が必要なのです
 貴女が知りたがっていた外の色を貴女のなか体内へ入れてご覧にいれましょう
 さぁ体も心も私にゆだねなさい 麗しき幽閉王女よ
 では私を飲み込むのです
 何を恥じらうのですか
 姫ともあろう方が怖いのですか
 赤黒い細い舌先でくすぐられただけで花弁がふるえていますよ
 さぁは挿いりますよ
 鱗がこすれるのがたまらないのでしょう
 そんなはしたないお声をあげて 啼きながらうれしがって
 貴女はよほどこの時を望んでおられたのですね
 私が貴女にお教えする色は甘美な毒と蜜の味
 この味を知ったなら このアトリエは無用の城壁
 もう絵など描かなくても良いのです
 ただ私と交わり混ざり合い 一つになる快楽を求めるままにむさぼるのみ
 天上の姫、地上のヘビ
 決して触れ合うことのない二人が突き上げ突き堕とした毒のなか胎
 さぁ合い言葉を
 ふるえるその清らかな唇から、淫猥なる至上のうた詩を!
 「花に毒薬、姫にヘビ」
 かくして暗闇に一条の光が射して
 薄汚いキャンバスには艶美に狂う蛇二匹
 千年来世の夢を見る

tukiyomi について

著作権は為平澪に帰属しています。 無断転写等、お断ります。
カテゴリー: 01_掌編小説 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です