知らないおばちゃん

知らないおばちゃん
同じ病棟の隣り部屋に
遠縁にあたる
近所のおばちゃんが
入院した
徘徊しないように服を
太糸で繋がれて
何度も何度でも
「家族が死んだ!」
と夜中叫び続けた
根性負けした看護婦に
家族の声を聞かせるための
公衆電話の十円玉の声は
一日三枚
ねえ おばちゃん
昔みたいに言ってよ
玉葱作りすぎたから
勝手に欲しいだけもっていき!
って
ねえ 喋ってよ
実の娘と娘婿が
ストレス解消に
夜中に虐待を受けてるって
  (どんどん家族が死んでいくのでこわくてねむれられへん)
おばちゃんは
家族を殺してしまった
贖罪のために
頭から樹海に入って
今も彷徨っている
ねえ 戻っておいでよ
片足を引きずりながら
杖ついて
茄子も持っていき!
と 大声で笑っていた
昔なじみの
知ってるおばちゃんに

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