親愛なる王子様へ

親愛なる王子様へ
入社したての私は紺のジャケットと地味な白のブラウス
黒いタイトスカートしか持ってはいませんでした
コピー機の紙詰まりにも似た安い金額明細書の苛立ちは
若さが手助けしてくださったのか
姫と呼ばれ それはそれは可愛がられたものでした
三十路というのは何か因縁を呼ぶのでしょうか
王子様がそろそろやってくるなどと考え出したりするもので
メイクも一流 仕事も一流 遊びも一流
笑顔で鞭を振り振り血ィパッパ
いつしか女王様と社員は呼びました
せんだって昨日四十回目の誕生日を迎えましたところ
魔女と呼ばれるようになりました
皺とシミに少しばかりの白髪さえ隠せるよう
魔法も使えるようになり伸ばすは背筋ばかり
この前ヒールのかかとが躓き階段を落ちそうになったところを
救いあげてくださった貴方
白い歯が眩しいイケ面敏腕青年
(見つけた貴方が私の王子様!!) と思いきや
「いい薫りですね、なにを纏われていますか?」
と いうものですから 私
「ええ、カレーシュを・・・。」
と 恥じらい即答致しましたところ
青年社員は腹を抱えてあざ笑い
「加齢臭!やっぱり魔女並みのキャリアになると言うことが違うなぁ〜。」
などとほざきやがるのです。
まあ、なんと無粋な!
エルメスのリリーカレシュを事もあろうに加齢臭だなんて
無知も恥もいいところ!
とっとと退社致しなさい
なんて呪いをかけてしまいました
嗚呼、王子様
待てど暮らせど不便です
この街の人混みをかき分けてそろそろ私を攫ってくださいまし
でなければ
「屁は出てよし 鳴ってよし そこらの埃もとれてよし」
などと一発かます卒塔婆小町になりそうです
あぁ 王子様
白馬の嘶きが遠うございます
お慕い続けて早十数年
貴方のために初回限定 幕張メッセを御用意しております
まぁ 私としたことがはしたない(笑)
    早々
王子様         
             般若より

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