セピア色のビーナス

セピア色のビーナス
誰もいない絵画教室には
色褪せた口づけが置いてある
僕が初めて触れた女(ひと)は
白い石灰の胸をはだけ
放課後の僕を待っていた
二メートル四・三センチの女神に
背伸びしたくちづけは
冷たい肌を晒しながら
僕の唇に火をつけた
君が生きていたら
プロポーズしでもしてただろうか
ピグマリオン気取りの
いつかの少年は
小父さんと呼ばれているのに
あなたはきっと綺麗なままで
僕を呼んでいるに違いない
僕の中の少年はあの日背伸びしたまま
初恋という名のアルバムに
揺らめきながら閉じたまま
「大人」になった
セピア色のビーナスを
胸に隠したまま
今は違う女神と恋をして
触れ合った
やがて二人の間にニンフが生まれ
小さな女神に
なぜか
あなたの輪郭を鮮やかに思い出すのだ

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