楽しく笑え

楽しく笑え
テレビが
とある撮影現場を放映していた
ベルニーニの彫刻から
抜け出してきたような美男子が
鍛錬された筋肉を魅せつけては
ビキニ姿の女性千人くらいに
キラキラ声を上げさせていた
颯爽と水上バイクに跨り
晴れ渡った表情を味方につけて登場した
男の太陽のように眩しい笑顔は
青い風を誘い込み
女の白い身体のラインから
甘い香が立ち上る
撃ちすさぶ波飛沫に堪えながら
トロピカルな成熟さを狙うカメラマンは
命綱で身体を斜めにして
頭を打ち付けて撮影する
裏方の青ざめた表情たち
レポーターの饒舌で快活な声は
歯を食いしばりながら
腕を上げたまま鬱血している
アシスタントディレクターの筋肉に食い込んで
既に現場の犠牲となっていた
――あぁ、一度でいいから、あんなことして脚光を浴びて楽しく笑ってみたいわぁ――
父はたいそうご機嫌で
深椅子にもたれて
水羊羹を掬い取っては口に運ぶ
私は何も言えずに
楽しく笑った

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