ひとつ

ひとつ
病院で
煙草をひとつ 恵んでくれないか?
と言われたので
貴方は骨折一本で?
と私は答えた
貴方が冷たい視線を
ひとつ投げ掛けたので
私は独りなのだ
と気づかされた
夏の雲がひとつもないので
ペットポトル一本買ったら
雨が降ってきた
過ぎ逝く 夏よ
奪うな  ひとつを
ドライフラワーになった赤薔薇
開かれない世界地図
遠い異国の残り香に
しがみつきたくても
力なく
ベッドから
はみ出した手は
どうしても ひとつだけを
守ってしまいます
横たわる悲鳴から
枕の上にしか
棲めないため息から
瞼を閉ざし始めた世界から
欲張りな私の泉を
命の極彩
私のひとつ
ひとつだけ

tukiyomi について

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