私の目の前に川が流れていた
多分物心ついたときからだったとおもう
十三才のとき赤く染まった私の体内(なか)から
流れる水をみた
(あの川の向こう側へいきたいな)
なぜかそう思えば想うほど その日から
両親を殺さなければいけない気がした
十八才の時父親に刃物を向けたのは
水の流れが逆流するような
同じ血を持つ二人の
悲劇性だったのかもしれない
(あの川を越えるためにこの男を切り倒さなければ)
私は歪な筏を早く作ってでも
川の向こう側の風景が見たかった
シネ という他力本願の寺にある山水
コロセ という自力本願の寺にある鉄砲水
青い呪いは逆巻く怒濤の飛沫に
父の血清は蝕まれ 視界は濁り
こめかみの動脈瘤は耳から赤い水を垂れ流し
老木は還暦の波紋の年輪を残して倒れた
川の向こう側には
生と老いの悲しみが
一掬いたまっていた
水 一救い
そのてのひらの泉に映っていたのは
ギラギラの眼 昂揚した顔で
笑いながらナイフを向けた
愛娘
あぁ 川は流れ続けるのだ
川は
川は

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