煙草

煙草
沈黙ケースのホテルから
四角四面な私を取り出すと
いとも軽く持ち上げて
唾液のベッドに放り込む
真っ白な私に真っ赤な言葉で火を付けて
頑なな私の芯を解ようにくちづける
あなたが私の躰を吸う度に
痣になった蛍火が
儚い命を闇に溶かして消えて逝く
ギリギリまで私を奪うくちづけは激しく
火照る私の体温は発火し高熱を帯び
病に犯され寿命を削り取る
あなたの憎らしい執拗な戯れに
私はヤニついた毒を吐く
けれど
容赦なく私を一本一本と
征服してゆくあなたの指先が
私を狂わせ胸の炎を踊らせ
私を蝕んで愉しんでいる
あなたの咽せた咳 ひとつ
これが私の精一杯の抗い
蒸気した私の涙が紫煙となって
くゆり くゆり と立ち上る頃
あなたに愛された記憶は
夜にはぐれて薄れてゆく
思い出を全て空にして
私を簡単に捨てるあなたに
報いを授けましょう
あなたの肺は真っ黒い点描画
誰も入る隙間もない
私だけの部屋になる

tukiyomi について

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