斜景

斜景
車椅子は後ろ向きに並び
待合室から掲示板を覗くギョロ目たち
黒鞄の中身は駆け引きと
すれ違う人の胸にはピアスホール
私は泳ぐように歩む
傾いた首で傾いた顔色を伺いながら
俯く病巣の中に
見えない手すりを求めながら
(ジストニアによるケイセイシャケイ。ストレスによるものですね。二年で完治する極稀な人もいますがあなたの場合はおそらく…)
容易く吐露する主治医のサラリーな一声が
耳に残響して早三年
私の見る 人も景色も
斜めに映ったまま陰を沈める
車椅子同士の笑い声に
待合室のいらだち
黒い革靴たちは早歩き
すれ違う人の
異質な私への疑問符は
白いマスクでシャットアウト
私の横目から溢れ出る
情緒不安定な雫たち
斜めに落ちて
いつも 誰かに踏みつけられていく
窓際で
傾いた頬にほおづえついて
睨んだ夕陽さえ
斜めに暮れてゆく

 詩と思想六月号入選作品

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