背中に触れる

背中に触れる
男の顔は 必ず前を向いているのは
右目で 敵を見破り
左目で 見方をつくり
いつも ギラギラとしているのに
その背中を 見せようとしないのは
孤独が貼り付いているのを
女に見破られるのを怖れるからだ
人生を受け渡せる女(ひと)に
生涯の夢を託せる相手(やつ)に
間に合わないで 志し半ば
白い箱に拘束されて逝くのは
男には 似合わない
だから あなたには
いつもナイフを研ぐことだけは止めないで欲しい
いい時代だったと語る
リアルなあなたの歴史を
錠剤やチューブの管で
口封じされることを
私はおそれている
そして 出来る限り
あの下町の汚い言葉で 罵り
私を 叱り飛ばして欲しいのに
あなたは私に 全てを話してしまって
私は何も言えないまま 頷くだけで
食べられない食材 高級料理を
私の為にだけに 口に運べ、 といい
無理をして自分の胃に
ストレスを流し込み 涙を押し込む
あぁ
どうしてそんなにも
私のワガママを 許してしまうのか
あなたは いつも怒っていた筈なのに
どうして
後ろ姿を見せるのか
どうして
優しい顔で黙るのか
あの ナイフは錆び付いてしまったのか
ちいさくなって やさしくなって
痩せてゆく
あなたの背中に触れたら
あなたが プロデュースした
キネマがまだ回っていた
女の前では
男は嘘が付けなくて
見栄しかはれない不器用者
全て見抜かれてもいいように 許すから
私は 男の背中に触れるたび
出来る限り 優しい言葉で
背中をさするように
刺し続けていくだろう
まるで それを詩にするように

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