ある招待状

今日 郵便屋のおじさんががあらわれて 記憶を配達しますという
宛先は 「レスボス島よりティータイムを」と、書かれてある
(招待状か 何かだろうか・・・。)
開けてはいけない気がしたのは
昔の彼女が愛用したプワゾンの香が 甘い顔をのぞかせていたから・・・
なのに私の手は あの抗いようもない
眩暈の痛みに会いたくてゆっくりと封を切る
     *
封入口から一番初めに出てきたのは 桜の花びらだった
その花びらには、一文字「恋」とだけ 書かれてあった
次に出てきたのは星空だった
流星の先っぽに「憧」を 乗せていた
最後に出てきたのは歪んだ赤い唇で大笑いする甲高い声
ゾロゾロとムカデが何万匹も這い出して
そのムカデには彼女の顔が張り付いていた
そして鱗には「憎」が黒くて鋭い鎧をきて
私の鼻から口から耳から穴という穴から
噛み付きながら舐めまわし
細胞を侵食し壊死させながら
記憶を 再封入するよう片付けてゆく
      *
私は小さく折りたたまれながら誰かの手で捨てられようとしていた と
その矢先、招待状の底辺から挿入させられたペーパーナイフをもった
誰かの手に落ちていた
ペーパーナイフの手は、私を丁寧に拾いあげて 広げて 広げあげ尽くして
その手をナイフからペンに持ち替え「男」と太く硬い文字で一筆書きを施した
全ての悪夢や私の身体で蠢いていた蜜虫は叫び声を上げて逃げ出した
今 私はその男の腕の中で昔愛した女の名を呼んだ罪で
クシャクシャにされながら、捺印を施され 
記憶は「激」という文字だらけで 真っ白に汚されて更新された
        *
いづれ 「御祝儀」袋に納められ
大安吉日 晴れた日に
あなたのもとに届く予定だ

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