巡る水

人工的に中性緩和された都会の水は
下水に流された水子の怒りのように
喉に張り付いたまま 炎となって泣き止まない
生まれ出るはずの者たちが きちんと産まれなかった
不定形な塊となって 数多の人の
血肉を呪い腐らせ 脳髄を麻痺させ
命の再構築の原理について 原始に戻れと神経を焼き切る
記憶を辿れば その源泉は女であった
     *
赤ちゃんが鼻づまりをおこせば
口でその水を吸い出して息をさせてあげるのよ
それは母との未来を語った水の記憶
その土地に嫁いだからには
その土地の水に馴染むことから始めるのだと
土間の囲炉裏の側で 腰を下ろして母を叱っていたのが
亡き祖母の水の記憶
水は 厳しい
けれど私を守る水は汚濁をのみながらも
なんと 清浄であっただろうか
都会の水で干上がった身体を横たえ 喉の嵐を家水で鎮める
毎夜静かに湧き上がる井戸水が
私の血液を更新してゆく度
女という血脈が こぼしてきた
苦い水の事を想う
私も又 人と人との間を巡りつづけ
誰かを潤す為の水でありたいと

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