ピンクのマニキュアを買う
好きな男に会うためだけ
その日の私の爪を
彩るのは四十になると
決して塗れない色のピンク
この指先で好きな男に
触れるのだ
真夜中風邪を引きながら
何度もコーティングしては
塗り直し 塗り直し
たった一日持てば用はない物を
私は三時間かけて染め上げた
ホテルのドア口で
マニキュア瓶と別れ
五反田で鞄の留め金に
爪がこすれ
渋谷の人ごみに色が褪せて
私の男にあったとき
私の指に爪はなかった
ただ
私の指が
あなたの身体の輪郭になぞりあげ
よじれたあなたが声をあげた時にだけ
私の爪には 赤い火が灯るのだ
あなたの身体の 隅々に私の爪痕が
今も さ迷って
黒く 喘ぐあなたを
ピンクに 染め上げてゆく
一夜限りの恋物語は
一夜だからこそ
千年のシナリオを
感じたままに
あとは男の爪に
委ねよう
お互いの 指切りが
ひとつの 思い出となるように
男の長い指を
私は 今日引きちぎり
私の指は 男にあげた

tukiyomi について

著作権は為平澪に帰属しています。 無断転写等、お断ります。
カテゴリー: 02_詩 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です