帰還

海から星が産まれるように
キラキラとしたものたちの共鳴で
光をつないでゆくように
人は空の軌道を輝きながら渡ってゆく
産まれたときは ふくよかで丸かったものが
未来に時間を手渡してしまうとき
にぎりこぶしは力を失い ささくれだった節々から
尖骨が薄皮を破って突き出し
平たく大きかったものは 破れて縮こまっては悄気てゆく
 (お父さんとお母さんは、 私が産んだのですか)
細く笑う父の歯の隙間を抜ける風
私の視線の下に投げ出された  母の肩には 鉛の荷物
 (いいえ、私が父と母から全て盗んできたのです)
あんなにもふくよかに笑っていたものたちが萎びれて
身体中のあちこちから 歯車の軋む音だけを 響かせて
夜の森へと誘い込む
三半規管の蝉時雨の森に、私の声は届かない
虫食いに荒らされた老木は 瞼を閉じた
夜が容赦なく老木を根元から蝕んでゆく
泣いてはいけません
星が巨星を過ぎて 海に還るのです
陸にいたものが 海に溶けるのです
今、という空が 燃えて沈んでいく
この瞬間、もう既にちいさな星が
暗い夜を渡る覚悟をしているのです
ちいさな輝きが 未来を駆け上り
海に沈んだ者たちを 照らし出し 
どちらが 反射鏡であったかなどと
問いただすように 透明に浮かぶ骨たちに
光を注ぎながら 海を 渡ってゆく

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