濡れ落ち葉

都会の住宅街の歩道を 年末を迎えようとする空から
心臓に刺さる零度の雨が 濡れ落ち葉にも突き刺さる
若葉だった頃 親木が大切に繁らせた「父」という葉は
厳格ではなく 風が吹けば吹くままに
アッチにふらふら コッチにふらふら
やがては 対になった葉にすら 見捨てられ
結んだ木の芽に 軽蔑されて 罵声を浴びても
風の吹くまま気の向くままに 酒を飲んでは赤くなり
脅されては 青くなり やがて冬になる頃に
葉の先が黒く染まって 癌に巣くわれ血便垂れる
それでも 悔やんだ歳月を 取り戻すように
働くことだけやめなかった
(自分が死んだら 誰が家族養うんや)
(お父ちゃん 宝くじこうたから これで九州に家族でいこう)
そんな言葉 普通なら もっと早くに言うのが良い父親です、と
人は言うかもしれないが
血便の付きのズボンを自分で洗っては 家族に心配かけないようにと
箪笥の奥底にしまいこんでも 今更九州になんて行けない身体
私は都会の雨に打たれながら 雨に濡れた落ち葉を掃く
掃いても掃いてもアスファルトにこびりつく 濡れ落ち葉
赤黒い血便を垂らした父の 焔のような決意が
どうか安い箒で簡単に 掃き捨てられてしまわないように
特に 私のような弱虫や 
川の字に手を繋いで歩く幼稚園児の靴になど 
決して 踏まれませんように

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