麻痺する指先

「非常ベルが鳴らしてみたかった」と、
その男の子は 泣きながら
お巡りさんに謝っていた
毎朝電車は ラッシュを呑み込むと 靴の群れを吐き出す
腕時計の長針先より 先にスマホ
乗り換えの電車は 急行より特急
徒歩よりは バス
車内には向き合う小学生高学年女子
の、喋る 今日の授業内容
「オカーサンたちって、昼ドラ、みたい。」
「アアー、ドウシテ、人、殺シチャ、イケナイノカナ。」
バスはいつもの角をいつも通りに 直角に曲がる
スピードを あげることもない
乗り込む人、喋る人、立ち上がる人、携帯が鳴る人、
全てが 無関係のままの 乗り合わせ
ーーー確信は されていた
ナニかに遅れてはならない。退屈で忙しい日々ーー
中央線 飛び込む自殺者に 舌打ちする音
ビックリして 切符が取り出せなくて 舌打ちされた音
上手く喋れないから 見てるだけ 聞いてるだけ
同じフィルムが瞳孔を開かせたまま
焼き付いて夜しか見せない
見たくないと思えば 乱視になる
聞きたくないと思えば 都合よく難聴になる
感じないのに指先だけ 聴くことをやめない
ーーナニかに遅れたいと思いながら 進まなければーー
地方テレビが取材している 黒枠の中の少年は
【人騒がせ】
という、カギカッコ、で、括られた
カギカッコにも入らない 私の指先が
非常ベルを 押したがる

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