動詞

人を、愛、する、 ということに、疲れて、しまった、人の
愛、している、というものに 縋りってみたくて 家出した
「し」はいつも隣り合わせに居たし 
高速バスに頬づえつく、くらいの、考える、という距離
移り変わるものは 季節ではなくて人の心
速度をあげて回転するタイヤの円周率、三.一四.一、
幾度目かの春
無限旅行を続けなければならない 
あなたにとっては 終わりの
私にとっては 始まりの 春
車窓の景色が変わるた毎に 傍にいた人は
伝言をのこして 下車していった 
何を彼らが言いたかったのか 夕陽が傾く頃
終点の改札口の駅員さんが パチン、と
切符を切った音で気が付く
今日の日付変更線が変わる前に 
飛行機に乗らなければならない
たそがれ、を飛ぶ真っ赤な色に染まった
カモメのような 淋しい飛行機に
人を、愛、する、 ということに、 疲れてしまった、人の
愛、している、 という風景を 私は見ていた
「し」というものが 目から夕陽を零して落ちていく度に
私の、わたし、が 泣き止まない
 (水は 一か所にいれば濁る
 (流れなければ息ができないのさ、君も人も僕たちも
 (燃える水になりたい、濁った油のようでなく、
 (水のカタチを宿したままで どこまでも、どこまでも、、
飛行機は私だけを赦して 飛び去って逝く
誰の背中に乗って ここまで来てしまったのだろう
誰の背中に寄りかかり ずっと泣いていたのだろう
 (流れるまま 炎のように生きなさい
 (浄化の源泉を 湛えて歩め
「愛する」ということに 「疲れてしまった」人の、夢の中で
私は「愛せる」というふうに 現れる
    緋色にゆらりゆらりと ゆれる夜の焔
    決して焔に溶けない 蝋燭が二本
    枯れないカーネーションを 活けつづけ
    ひび割れた老眼鏡を 置く
旅去った者たちよ
私はあなたがたが名付けて遺した 唯一の動詞だ

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