サーカス小屋

サーカス小屋の団長はよいこが大好きでしたから
子供たちは 今日もこぞって 団長に
誉められたい、認められたい、ためだけに 献身的な言葉で言い寄る
(私は団長のために 右手を捧げます、明日は右目を。
(僕は足を切ります、団長への忠誠心は誰にも負けません。
(私なんかすべてを捧げます、手も足も耳も口も皮膚も舌までも。
団長は少し困りました
親に捨てられたと思っている子其々に 伸びて行く得意技や
凄い曲芸があることを 教えたかっただけなのに
誉められたい、認められたい愛されたい、子供たちは
自分が如何に団長の、一番であるかを競いたがる
繋ぎ合う手がなければ 空中ブランコはできますまい
足がなければ玉乗りが、口がなければナイフも飲めず
目がなければ火の輪潜りは 虎にだけ
サーカス小屋は店仕舞い
やがてあわれな子供たち テレビで放映されました
それでも子供たちは 大威張り
惨めな姿を晒しては それが誇りだ、勲章と、
愛のカタチに 胸を張る
それを見ていた観客が
両手をたたいて指を指し 声をあげて笑い出す
一番悔しかったのは団長で 一番悲しかったのは
サーカス小屋に行かせた両親
(あれが娘の夢に見ていた「居場所」なのか、
(私たちはただ、自分の食べたお茶碗を、自分の手で洗える、それだけで、、、。
(あの子を見世物にしたて上げたのは、私たちだったのか、、、。
涙ながらにだるまになった 娘の姿に手を合わす
サーカス小屋が見世物小屋になったことなど
勿論知らない子供たち
今日も満足そうに 笑ってる
 ※ 詩と思想5月号 巻頭詩   特集テーマ「壁」

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