屋根裏部屋で「し」を作る

お腹から卵を一つ取り出して 私は一つの「し」をつくる
月に向かって 卵を放り投げておくと
月は空で泪目になるころ 「し」をこぼす
私は卵を産むために 屋根裏部屋で猫とじゃれ合い
卵を夜空に投げて月で割ると「し」ができる、という
仕組みを覚えてしまうと 遊ぶことに夢中になって
猫が愛しくてたまらない
    ニャアニャアニャア、と啼けば啼くほど
    正比例していく卵の中身の成熟さ。
    猫は真っ赤な瞳を凝らして私を見ている。
    まるで生贄にされたのは
    卵なのか自分なのか、というように。
                ※
私はこの猫を屋根裏でしか飼えないように飼育した
始めは独りに戻りたいと おかっぱ頭の影を懐かしみ 
白い昼に憧れて いつも、もじもじしていたが
夜になると猫は猫らしく長い爪をニョキッと、出して 
私が卵を産むあたりを おし広げてはくすぐり続け
私がニャアニャアニャア、と啼けば遊びに夢中になって
卵を産めと ゆすぶり、せかす
                 ※
屋根裏部屋の鍵は猫がさしこむ、私はそれを上手にまわす、
扉は赤い両目から開かれる、そして黄色い卵が空に昇るとき
私たちがついた「嘘」を「月」で割る
あの夜空の月が私と猫がつくりあげた、「し」だとは知らない人々は
月に向かって 詩を作る
        ※文芸誌「狼」25号   掲載作品

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