神隠し

西日のツンと熱さが刺さる土の上に
父の遺骨は 埋められた
真新しい俗名の墓石は それぞれの線香の煙に巻かれながら
親族が帰るまで夕暮れの空を 独りで支えなければ 誰一人として
家に帰ることは出来なかっただろう
役所からもらうたくさんの紙に 父の名は散らばり刻まれ転がされた
間違えられた「父」や「本人」という文字は シュレッダーにかけられ殺された
名前の欠片が灰のように飛ばされながら 塵のように「父」の影だけ残していく
完成書類に捺印が押され紙切れに命を吹き込まれると
ファイルたちが「父」を平らなケースに寝かせて処理する
紙切れは死んだ父の変わりに甦り「生存給付金のおしらせ」として
父のような顔をして家にやってきた
多くの書類、封入された御仏前の抜け殻、法事の残りの熨斗紙
区役所たち死んで尚、父を管理しては紙幣で買い取り
手から手へと取り引きしながら橋渡し
   (施設も、付き合いも、契約内容も、法律も、
   (知ったもん勝ち、使ったもん勝ちなんだよ、
   (しっかり読みなよ、自治区の広報。
赤いA4ファイルの回覧が怒鳴りながら
ほとんど毎日出歩きまわる
挟み込まれた広報便りを 老眼鏡でも読めない母が
広報に丸め込まれて潰される
重要箇所の小文字の隙間 煙に巻かれて挟まれて
神隠しにでもあったのか 母が回覧板を持ったまま
出て行ったきり 家にも帰って来やしない

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