家霊

突然の地震で硝子戸から こけしや人形のたちが落ちて
首と胴体が切り離されて 頭がどこまでも転がっていった
電子レンジがガガガガと 上手く喋れなくなり
冷蔵庫は大鼾をかいて 安眠した
洗い場にぶら下がっていた豆電球がSOSの指示を出しても
誰も助けには来なかった
白熱灯は高熱に魘され 頭がショートしてキレた
トイレの水は水であることを忘れて 土になろうとした
風のない夜に決まって 瓦が三枚づつずれ落ちる音を
濁った井戸が滴を毎夜 滴らしめて仏間に合図を送った
台所の置時計の針は とうとう時間軸を突き破り
時を殺す
白蟻が昼間の空に 人灰と粉骨のうねりを
屋根にまき散らし始めた
家具やベッドは廃棄され マットの涙は乾いてしまった、のに
横たわっていた人の眼が 抜け殻になってゆく家の行方を 
見守るように 監視する

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