花火

私は 地獄通りの道を歩いている
「詩人」という、重荷を下ろせば きっと
地獄通りを 通らなかったに違いない
こんなにも暗く、高潔で、淫靡な道を 
コトバだけで築き上げた 女の迷路からまだ出られない
ドクダミの花を見つけるたびに 
白い十字の傷跡を拾って 苦く舐めながら
女が抱く腕の深さに打ち震え地獄通りを振り返る
            ※          
          
こい、は 夕焼け空の暮れてゆくデパートの屋上にあった
私は街灯が灯る頃 焦げた空の残骸を拾い集めてファイルに仕舞う
待ち合わせ場所の懐かしいお喋りなら 風と私で片付ければいい
五階建ての巨塔が映し出す案内表示板はいつも一方通行で、
ショウウィンドウのマネキンたちは着飾ったまま 誰も待たない
改札口のカップルは固有名詞を持たない 男や女
最上階のベンチに座った恋人同士は 観葉植物の役目を果たすと
屋上で詩人に作り上げられ、地獄送りにされて逝く
下で口が開いている赤いアルバムに二人、ずっと貼りついたままで。
 
             ※
焼け爛れた心から見える空の星はいつだって綺麗に流れ、
やがて炎の花になる
歩き出す地獄通りを 花火の音が背中から追いかける
(仕掛けたのは誰だったのか、放ったのは何だったか
(その正体を 今ならなんと呼べたのか・・・
           
             ※
遺言状の理屈を打ち明け、打ち上げ、
花咲く炎が見えないところを通過して 胸を射抜いて派手に散る
トウキョウの花火は 激しくて、鮮やかで、潔く、
そして、ネオンより、涙もろい
        
       TOLTA主宰「現代詩100周年」寄稿作品

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