小詩  二篇

「母 」
「家庭に光を灯して共に」
煽り文句は便利なコトバ
その言葉をバーゲンセールで買った母
巨大な塔を一つ、造ってみないか、と
安請け合いした黒い声が
赤く点り、二つ連なり、
三つめに爆発して、「僕」
僕に左手なく右足なく
麻痺した舌で 母に届くコトバもなし
五体満足な母が
何でもいいから
言いたいことがあれば
ここに書いてごらん、と
見せつづける白紙
真っ黒に裏打ちされてしまった
僕のコトバ、僕だけの声
僕は 塔の上で笑っている、
キレイな白紙ばかり見せる母に
今日もペンを投げつける
「楽園 」
その声が聞こえない
伸びることしか知らない真(ま)っ新(さら)な声が
コインロッカーの箱にしまわれていく
はじめから何もなかったように
もう、その声は聞こえない
ここは楽園
花畑で荒地を隠した楽園
世界で一つだけの花を皆で歌いながら
誰もが同じ背丈であることに安堵した
その声が聞こえない
生れ落ちたばかりの闘志
振り上げたままの何かを掴んだ拳
肯定せよ、肯定せよ、泣き喚く第一声、
原始の衝動で夜を叩く声を
赤い舌たちが「私生児だ」と切り刻み
灰色の花園に誘い込んでは埋葬していく
その声は、夜、荒野の中で干からびた
         
        ※
「ここは楽園、こんなふうに楽園!」
大歓声に誰かが大きな拍手を贈る

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