(心)はいつも正しかったのに (心)に一番遠いのは私だった
(心)は全てのものを正しい名前で呼べたし書いてみせたのに、
自分の名前は 知らなかった
(心)は正しいことが大好きで(心)の法則に従えない者は
屈服するか屈折するしかない
私は(心)のことが好きだったが(心)を見たことはなかった
(心)をどうしていかわからないし(心)が何者か知らないのに
できるだけキレイな(心)というものが欲しかった
(心)は芸術家でなんだって作り出せたし自由奔放に生きているくせに
自分が一番不自由だと喚いた
(心)に足りないものは私にも足りないし
(心)が見えるものは私にも見えるのに
その向こう側の( )に続く途はいつも見えない
ただその途の途中で、打ち捨てられた田畑、
雨水を湛えた汚いポリバケツが映し出す曇り空や
廃屋のポストに無理矢理突っ込まれた新聞紙たちの、
褪せた印刷文字の( )、
そういうものに(心)は淋しく引っかかる
※
信じてくれますか、信じてくれますか、責められると
(心)はいつもも俯いて 押し黙り、答えられない
蓮の花がどんなに美しく語ろうとしても
(心)は蓮の中の、泥の過去を言い当てた
※
蓮など泥の中で育ちも悪い
美しく見えても末は ハチスになって滅ぶ
燃え尽きるだけの執念の女が見せる一時の虚栄の姿など
時の前に鮮烈に脆く崩れ去るではないか
(私)が欲しいのは 私の中で眠る花
夢の中で腐る花でなければ
泥の中に還る花でもない
捨てきらなければ 咲かない花
放たなければ 呼べない花
殺さなければ 名付けられない花
盲目の国の ただ一つ、
ただ一つの、( )
※
(心)はそうして「蓮の花」を分析して分解して
粉砕した花の上を歩いていく
(心)が正しさを武器にすると時代は頭を垂れ命は瞼を閉じた
誰も(心)に触れなかったし(心)を傷付けた者は気が触れた
(心)は誰も愛さなかったし、私もまた、誰も信じなかった
それなのに、
信じてくれますか、信じてくれますか、花が尋ねると
(心)はいつも俯いて、ただ一つの答えが言えない
※
疲れ果てた(心)は(心)を取り出し泥の中に埋めて眠る
暗闇の中に光る蓮が一本、傍らで生きてきたことなど知る由もなく
(心)は、もう目覚めることもない
ポスト戦後詩ノート 8号 /杉中昌樹 編集
(一色真理 特集)掲載原稿
-
最近の投稿
カテゴリー
最近のコメント
カウンター
76,763アーカイブ
- 2024年1月 (2)
- 2022年6月 (1)
- 2022年4月 (3)
- 2021年5月 (2)
- 2021年3月 (1)
- 2021年2月 (2)
- 2020年12月 (2)
- 2020年9月 (1)
- 2020年8月 (1)
- 2020年7月 (1)
- 2020年6月 (1)
- 2020年4月 (1)
- 2020年3月 (6)
- 2019年12月 (4)
- 2019年6月 (2)
- 2019年3月 (2)
- 2019年2月 (4)
- 2018年12月 (3)
- 2018年9月 (2)
- 2018年8月 (2)
- 2018年7月 (5)
- 2018年6月 (1)
- 2018年5月 (1)
- 2018年4月 (1)
- 2018年3月 (1)
- 2018年2月 (2)
- 2018年1月 (4)
- 2017年12月 (4)
- 2017年11月 (1)
- 2017年10月 (1)
- 2017年9月 (2)
- 2017年8月 (4)
- 2017年6月 (4)
- 2017年5月 (2)
- 2017年3月 (2)
- 2017年2月 (3)
- 2017年1月 (1)
- 2016年12月 (3)
- 2016年11月 (4)
- 2016年10月 (2)
- 2016年9月 (5)
- 2016年7月 (4)
- 2016年6月 (4)
- 2016年5月 (1)
- 2016年4月 (1)
- 2016年3月 (4)
- 2016年2月 (4)
- 2016年1月 (3)
- 2015年12月 (1)
- 2015年11月 (4)
- 2015年10月 (6)
- 2015年9月 (4)
- 2015年8月 (3)
- 2015年7月 (5)
- 2015年6月 (4)
- 2015年5月 (5)
- 2015年4月 (8)
- 2015年3月 (7)
- 2015年2月 (3)
- 2015年1月 (4)
- 2014年12月 (4)
- 2014年11月 (7)
- 2014年10月 (5)
- 2014年9月 (10)
- 2014年8月 (14)
- 2014年6月 (1)
- 2014年5月 (6)
- 2014年4月 (6)
- 2014年3月 (11)
- 2014年2月 (6)
- 2014年1月 (3)
- 2013年12月 (2)
- 2013年10月 (5)
- 2013年9月 (6)
- 2013年8月 (4)
- 2013年7月 (9)
- 2013年6月 (7)
- 2013年5月 (5)
- 2013年4月 (3)
- 2013年3月 (3)
- 2013年2月 (9)
- 2013年1月 (3)
- 2012年12月 (6)
- 2012年11月 (6)
- 2012年10月 (9)
- 2012年9月 (8)
- 2012年8月 (12)
- 2012年7月 (10)
- 2012年6月 (6)
- 2012年5月 (8)
- 2012年4月 (8)
- 2012年3月 (6)
- 2012年2月 (6)
- 2012年1月 (12)
- 2011年12月 (7)
- 2011年11月 (9)
- 2011年10月 (6)
- 2011年9月 (9)
- 2011年8月 (10)
- 2011年7月 (15)
- 2011年6月 (5)
- 2011年5月 (14)
- 2011年4月 (13)
- 2011年3月 (15)
- 2011年2月 (11)
- 2011年1月 (10)
- 2010年12月 (9)
- 2010年11月 (8)
- 2010年10月 (14)
- 2010年9月 (18)
- 2010年8月 (20)
- 2010年6月 (10)
- 2010年5月 (14)
- 2010年4月 (12)
- 2010年3月 (17)
- 2010年2月 (13)
- 2010年1月 (14)
- 2009年12月 (4)
- 2009年11月 (8)
- 2009年10月 (19)
- 2009年9月 (29)
- 2009年8月 (5)
- 2009年7月 (1)
- 1970年1月 (1)