肉体の、
肉体の檻が邪魔だ
空間をよぎって その声は
いつも私を焦らせる
部屋を暗くして闇にうずくまる
部屋の心音と私の動悸が重なって
あらゆる、存在に理由を付けたがる私の思考が
膨大な情報を流し込み細胞から壊死させていく
追い詰められ逃げ場所をなくした私の、
吐く息の温度を奪い、呼吸が酸素を求めて
外景の底を這いずり回る
薬はカプセルの中にしまわれているのが幸せ
でも、薬を飲まなければ、あなたはあなたの激情で
頭ごとあなたを、壊してしまうでしょう
(私は囲われているものはみんな嫌い)
電車に運ばれていくときは一人が当たり前だったのに
二人だと容易く独り、になりきってしまう、この街の、
ありきたりの軽薄さに 慣れることはなかった
風に乗ることもできず、風をまとうこともなく、ただ、
風に飛ばされていく炎のようなモノたちを、
いつまでも大切そうに見送って
電車が来るたびに「自由になりたい」と小石をぶつけながら
踏切に、自分の遺体を何度も泣きながら置いた
愛することにも愛されることにも不慣れで
懐疑的な頭から爪の先までを終おうとすると見えてしまう、
名前の付いた箱に入りきれないモノ、あるいは、
その箱の向こう側で息をしている、名付けられない世の名詞
見たこともない事実だけを尋ねて歩きたい
居心地のいいユートピアも、ほど遠い身で、
リュックサックに大事そうに負ぶさっている
“自由に生きられないなら、死にたい”を、
取り出してしまえれば
私はやっと 自分らしく迷えるだろうか
旅の途中で私を生かそうとしていた
ペットボトルの水や、カプセル薬を全部海に流してしまった
肉体という殻を脱して、この世に名のつく物よ、さらば
その果てにある、果てのないものの正体が
手を振って私を呼ぶのが見える
ただの家出娘
もう帰る家も器も持たない、
ただ、それだけのこと
(ファントム2号掲載原稿)
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