コト、たりない

たくさんの本棚に囲まれた部屋に
一つのテーブルと 一脚の椅子
灰皿には薬の抜け殻と オーダー表
鳴らない黒電話、かける機会のない大型レコード
ここに来る人は饒舌の上にある沈黙を愛した
本が話し始めると
ボクはこの部屋の外側へ行くよりも簡単に 
時空を越えられたし
レコードは毎日僕に恋心を告白する
オーダー表があるから お腹も減らない
なのに、
テーブルの灰皿に薬の殻が
積まれていくのは何故だろう
鳴らないはずの黒電話から
 ─ 病院へ、、、 と、勧められ
ボクはテーブルの向かいに側で 
壊れて隠していた椅子に 辞書を置く
椅子は 泣いていた
ボクも 泣いていた
出会った時から対話していたはずなのに
辞書でヤマイ、の意味を見つけ出せない程に
ボクたちの間でコトバは 無力になった
壊れたあなたに凭れながら
ボクたちは互いが流す、温かなものさえ
信じられないままに
「 」に、コト、たりない

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