春祭り

父親の肩にしがみつく幼子の瞳に 
映る、黄金の御神輿
何台もの金の神輿が練り歩く 
この街の酒気を帯びた
荒くれ者の若い衆によって 持ち上げられる
「エンチキドッコイショー」
かけ声は
祖父に風呂場で手拍子させ
祖母を羽織に着替えさせ
幼い父に祭りが来たと 囃し立てさせる
神殿前に高々と宙に持ち上げられた御神輿と
祖父の肩に摑まったままの幼い父の亡霊と
はぐれないように、はぐれないように、
春を越えて一致団結し繰り返される
かけ声の向こうに側に しがみつきたい私
四年前この神社で大吉を引いた父が
一年分の期待を手に入れて春を迎えたまま
春にさらわれて逝った
境内に差し込む最後の西日のような
か細い眼差しを私に注いで
黒いジャンパーを後追いする子供が
足を取られて転ぶ、祭りの帰り路
易々と抱きかかえられ
父親に作られた小さな神輿の中で
肩に摑まった自慢気な瞳が 
私の内部を覗き込んで
忘れ物の在処を問いかけるが
突然の父親の頬ずりに幼児は堪らず
「エンチキドッコイショー」
子供神輿が髭の痛さに耐えかねて
かけ声宜しく泣きながら
町の横丁を練り歩く
抒情文芸選外佳作

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