西日

一日の終わりに西日を拝める者と 西日と沈む者
上り坂を登り終えて病院に辿り着く者と そうでない者
病院の坂を自分の足で踏みしめて降りられる者と 足のない者
西日の射す山の境界線で鬩ぎあいの血が
空に散らばり 山並みを染めていく
そこから手を振る者と こちらから手を振る者
「いってきます」なのか、「さよなら」なのか
西日の射す広場で押し車を突く老いた母と息子の長い影を
またいでいく、若い女性の明日の予定と夕飯の買い物の言伝が
駐車場から響いてくる
私の額には冷えピタ
熱っぽい体にあたる肌に感じる暮れの寒さ
胃の中に生モノが入っても消化していく胃袋
そういうものについて西日が照らしたもの、
取り上げていったもの、
一区切りつけたもの、
誰かの一日が沈み 何処かで一日が昇っていく
その境目のベンチに腰を下ろし
宛てのない悲しみについて思案する
陽に照らされた私の左横顔は
顔の見えない右横顔にどんどん消されていく
ツバメがためらわず巣に帰るように
カラスに七つの子が待つように
みんな家に帰れただろうか
ヒバリは鳴き止み アマガエルが雨を呼ぶ頃
暮れた一日に当たり前たちが 
安堵の音を立てて玄関の扉を閉めていく
生きる手応えと 生ききれなかった血痕を吐き
私もまた鳥目になる前に 
宛てのない文字列を終えなければ
影絵になって消えていった人に
「いってきます」でもなく「さよなら」でもなく
「またいつか・・・」と 
その先の言葉に手を振るだろう
寂しさを焦がす赤い涙目の炎に射抜かれて
私も自分の故郷に帰れるだろうか
家族と仲良く暮らせるだろうか
蜃気楼に揺らぐ巨大な瞳が桃源郷を作り出し
酷く滲んで 私を夕焼けの下へと連れていく
モノクローム創刊号掲載作品

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