転がる

差点で行きかう人を 市バスから眺める
私には気付かずに
けれど 確実に交差していく人の、
行先は黒い地下への入口
冷房の効きすぎたバス
喋らない老人たち
太陽に乱反射する高層ビルの窓
その下に黙ってうつむく黒い向日葵
通り過ぎていく冷めきった人間たち
バスは座席からこぼれつづける多くの会話を
次の停留所で吐き出しては
また、新しい言葉を積んでいく
── 梅田の一等地あたりのマンションでいくらですか
── ロッカー、どっこも空いてないやん
── あの人いっつも家柄の自慢ばっかりやんか
『次は土佐堀三丁目』
大阪に網羅する血管の、
血が通っている所と、通わなくなった所
その、間の駅で降車する
改札口から吹き抜けていた風が
日照権のない平屋へ足を運ばせる
夜は 独り缶詰の底に沈んでいる家族の事などを想い
職場でハンマーを振り上げては
゛目玉焼きになる゛と 笑う父の姿が濃くなっていく
角の路地を出れば 小さなガラスケースの中
ウインナーとトースト、そして目玉焼きが
モーニングメニューとして
日焼けし、蝋細工の色は欠け落ちたままだ
違ってしまったのは
そこに何十年と通い詰めていた男が一人、減ったこと
一つ番地が消えたこと
以外、
変わったことなどさしてない
駅に向かう私を市バスたちが追い越していく
夕陽は黙ってうつむく私見つめて沈む
誰にも気づかれず死んでいく者の数を
あの赤い空は知っているのだろうか
        *
高架下の交差点で
誰かに放り棄てられたビール缶が
どこまでも転がっていく
ガラガラと音を立て うろつきながら
どうしようもないことに 
つぶされないように
横切っていく
私も素知らぬ顔をして
横断歩道を渡っていく
コンビニに入ると
店員はビール缶を棚に出しては
いくらでも並べてみせた
その手の裏側の方から
サイレンの音が鳴り響く

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