先生

先生はおもむろに厚い本を取り出し、その中にいる私を見つけようとしていて。
私は寂れた町の夕暮れの隅っこで、半額引きの親子丼ぶりを食べながら怯えていて。
先生は男色家たちの優雅な生活について語っていて。
私は先生に見つけてもらえるよう、暗い町の端っこで白いノートに私の生活を綴る。
先生は黒いマスクに黒縁の眼鏡。黒い礼服を着ていて。
黒い本の中の白いページに浮かぶ文字列に、私の姿を探そうとしていて。
私が挙手して合図を送ったのは、なぜか疲れた顔の役人で。
           *
  お前のくせに何を食べているといい、
  お前のくせにこんなものを食べていたのかといい、
  お前のくせに文字が書けたのかといい、
  お前のくせに免許証を持っていたのかといい、
  お前のくせに病院に行くのかといい、
  お前のくせに。
           *
先生は私について、海外貿易を心臓のバイパス手術に例えた話を語り、
救出がとても困難だ、と呟く。次のページを敢えて飛ばして新しいセンテンスや
小見出しに目を向けて、赤のラインマーカーを引く。
私はそのまま飛ばされ挟まれ、赤く潰された。
先生は何事もなかったかのように本を閉じ、
テレビのチャンネルを切るように画面を閉じる。(目を閉じる。
ヴィヨンの妻があった本棚にヴィジョンの毒と変換されたファイルがそっと、
保管されていたのは見たが、机の上に置かれた厚い本の名を知ることはできない。
本に挟まれた私の顔に赤いマーカーで「お前のくせに」と
大きなバツ印が書き込まれて、私が先生とおもっていたのは誰だったんだろう、
先生。

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