わたし

右手は清いが左手は汚い。汚れた手なら切り落としてしまえ。
右目が見えるものを左目は見えない。見えない目なら節穴も同然。
左足が前に進むと右足は退く。使えない足なら切り捨ててしまえ。
右肩が上がるなら左肩は下がる。頭が平衡に保てない肩書なら潰してしまえ。
口に出してはいけないことを口にする。そんな素直な心は壊してしまえ。
すべては体が資本。器だけ残ればいい。
   右手が左手を抑えつけ
   右目が開くと左目は閉じる。
   左足が右足を踏みつけて
   右肩の意見に左肩は従い続ける。
   口はとうとうゲロを吐き
   心はどんどん遠ざかる。
右手を切り捨て左目をくり抜き右足を失って
バランスの定まらない視界を口にする頭に
もはや涙は宿らない。
カラダだけが累々と行進していく茫漠の土地で
イタイの群れを横目に通り過ぎ
先程、遠目に見送ったのは
一体、誰。
*「ファントム5号掲載原稿」

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