墓標に名を彫る

墓標に名を彫る
どれほど
強い自己愛だけで
詩を綴るのか
紙が腐る程の
自分が吐く息
白いはずの紙は
黒く窒息していった
汗ばんでいく人間性
教室の裏側で 翻ったままで戻らない 答案用紙
あの夏 甲子園の決勝戦で
負けて歯を食いしばりながら
自分たちの夏の残骸を拾う野球児たち
たった一度のミスから
ファール球をキャッチ出来なくて
勝敗が決まったその青年は
一生涯をかけて
自分の骨を見つめて
暮らすのだ
ひと一人 生きるということは
全体の敗戦前で発狂しながら
個人として背負わなければならない未来の過失
体感の過ちは 
頭を責め 季節を凍らせたまま 
自分への墓標に
絶えず枯れた花束を 手向けること仕向ける
苦渋は辛酸と手を繋ぎ 笑顔を磔の刑にした
人の真夜中を垣間見た 詩人が
その光景を 描写しては 破り捨てる
 (歌えない夜に 笑っていない眼)
詩人の目は
いつも自分が まだ
ギリギリ 人であるかを知るため
墓にむけて 仲間の
文字を 刻んで
泣けるか泣けないか
  (人を見て 己の底を視る)
刻め 刻め
過去から続く
傷を引っ掻くように
強く 刻め
ファール球を落として
一生笑うことが出来なかった
青年の笑顔が
浮き出るまでに
お前が背負うべき
リスクの名前たちすら ファイルにして
生きた過ちをも 道連れに
人は 現世も 幽世も 
修羅を 逝く

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