看板と表札

大都会へ行けば行くほど大きな看板がある
当たり前だよね
こんなゴミゴミした場所で 目的地のホテルに行くには
デカイ看板でもないと無理
大きなホテル程 大きな看板が名乗りをあげて
そこでイベントや授賞式やインタビューやスピーチがありまして
来賓席に座る人の椅子には 名誉の看板がぶら下がる
その代名詞にあやかりたい人が
看板をペンキで塗り立てあげたり、拝んでみたり、磨いてみせたり、
色とりどりに色鮮やかに目立って光る
ネオンが虹色に変色する街で
見上げた巨大な看板にたくさんの「我」が飛んできて
くるくる回って貼り付きたがる
人の持っていない、人より大きな、人より特殊な看板を
背負って肝心の「表札」を無くした者もいるのに
夜のうわべを飾り続ける華やかな看板
グランドホテルの看板が これからどんなにきらびやかに大きくなっても
そこに自分の名前を一生刻んで住み続けることも
親の仏壇を背負い込むこともできないのに
エライ人は看板の作り方や経緯や光具合が肩書き文字が大好きで
何処からともなく看板の 大きさめがけてやって来る
看板の真下から伸びた影の指す先に崩壊していく私の家庭
日照権すら剥奪された暗くて黒い表札たち
私の家族や本名をよんでほしいといいながら
腐った蒲鉾板のような表札が
誰にも磨かれることもなく
私の帰りを独り待つ

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