リスト

汚いことから 目をつぶれば
長生きできると 世間が言う
汚いことに 目をつぶれば
死んでしまうと 風は言う
万年床、密封された部屋で
背中は地心のマグマに 燃やされながら
瞼に青い炎が一つ、 浮かんでは 
真っ赤な空へ昇ってゆくことを 繰り返していた
空に手が届きそうになると 私の体から
海が溶けて 溢れ出す
そこには 境目もなく
不透明な得体の知れない
遺体が一つ、風に晒されてあるだけだ
汚いことに 目隠しされた王国で
私は私の 腐乱死体を
今日も見つけて
リストにあげる

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月と靴と冷蔵庫

靴を履いて出掛けるたびに 冷蔵庫が肥っていく
月を眺めて暮らしていると 冷蔵庫が痩せていく
月が見ている私の距離は 靴で行けない夜の国
そこは 冷蔵庫のいらない世界
そこは 腐らない野菜畑
そこは 神様が見た夢でできていて
死んだ父が 生きていたりする
でも、
地球が靴を掴むから
歩くたびに 私に背中に 重石のような冷蔵庫
生きていくための必要と不必要を 選り分けながら
バーコードや数字の価値に急かされて
進む私の足元を
今夜の月が横顔で 傾げてみせては 照らしつづける

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盲目ピエロ

自分の姿も見えないくせに 多くの人を傷つけて
その傷口に入り込んでは 自分の居場所を見つけたりする
端役のくせに 主役をエキストラにしてみたり
助けたと思った相手に 救われたり
大事なことには少しも気がつかず「じぶん」を展開させてみて
土足で人の舞台に 上がり込む
そんな真似だけお得意で 悲劇ばかり演じているのに
喜劇のチケットばかりを 配って歩く
私が舞台の隙間からずっと呟いてた呪文
(オトウサン、ニ、アイタクナイ、カラ、カエラナイ。
自分の身の丈も弁えず 
私がむげにしてきた一つ一つのシナリオたちを
誰かに優しく訂正されたり そっと修正してくれた人々の
願いの中に父がいて
私がきちんと喋れるように動けるように設えてくれた、その父の、
死の間際にも 「カエリタクナイ」 舞台が続く
私は今日も力の限り あなたの背中に叫び続ける
(オトウサン、マダ、カエレナイ、ダカラ・・・ドウカ。
あなたが一番初めに産んだ子が あなたを一番に老いさせた
家、がありながら 劇場好きで芝居好き
蛍光灯の下では歌えない 
スポットライトの加減ばかりが気になって
どんどん濃くなる自分の影と 
向き合いながら 闘う力も気力もなくて
幕が下りればその影に連れられ ぐるぐるまわる自分
(三文芝居の開演です。今日も私の、コウ、フコウ、
(寄ってらっしゃい、見てらっしゃい、
(実は私が本物の、主役ですから、主役ですから、、
盲目ピエロは上機嫌
魔法が解けないシンデレラ気取りで 
白雪姫のドウラン塗った魔女のカタチで
刷り込まれた台詞を並べ続けて 胸をコトバでうめつくす
けれど、
歩いてきた道に街灯が灯る度 浮かぶ自分の影の中心を
見つけられて踏みつけられると また動けなくて泣いたりもする
薄汚れたスニーカーの靴紐を 
何度も結びなおしてくれた父の手が 
黄ばんで黒く垂れ下がる部屋で 向き合うひとことの愛情
(おまえは、娘か、ピエロか、死神か、、、
私に化けたピエロを 呆けた目で見破った人
川の字の、真ん中にいた「わたし」だけが 流れていった
家族の行く先など私には見えなくて
ミスキャストの謝罪文が届くころには
家が一つ たそがれに 燃やされる

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生きたいと願う父が死んだとき死にたいと思う私が産声あげる
サヨウナラサヨウナラって粉になるでんぷんみたいに翔ばされる骨
肉体の元素記号を燃やしても軽くならない質量 タマシイ
立ち上る狼煙のようなお線香まだここにいるまだここにある
この歌もこの歌も手向けるには早すぎた旅立つ父に春雨が降る
薄桜漆黒桜紅桜一斉に啼け一生に泣け
若き葉に季節奪われはなびらは紅の業を風に手渡す
学園門くぐり抜けて春は逝く桜並木は瞼の裏に
いろどりの傘に落ちる涙雨つられて連れられて思い出が通る
つなぐ手や背丈の高さのぬくもりは追いこせないの いつまでも父

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鍋の中

生肉のままでは 水分が多くて煮えないからと
腹を裁かれ生血を取り出し 三枚におろされた、肉
塩分があらかじめ多いからと 再度合成調味料を
流し込まれ みりん漬けされる
新鮮な生肉であったもが 解体されながら
甘酸っぱくなっていくのを 料理人は楽しんだ
滅多にない食材は 新米シェフが作る、
初めての創作料理として 棚上げされた
調理は深夜に 執行される
まず、腹を裂き腸を取り除き 三枚に卸され
綺麗に押し広げられた
まな板に横たわる口が 何か言いたそうに
死んでいない魚の目をして 相手をずっと睨んでいる
誰もいないはずの 寝台所に横にされ 脳ミソを
麻酔とアルコールづけにされて 瓶詰された
声が出ないように喉に差し込まれた押しポンプに使う、管からは
白い空気だけが漏れている
右手を巨大なピンキングバサミで ごろり、と
切り落としては 文字が書けないようにして
左手を刺身包丁で皮をそいで 携帯が持てないようにする
ぐつぐつと煮えたぎる鍋に 易々と放り込まれ
鶏ガラスープになるまで煮詰められた、父の、
出汁を一口 主任シェフが嘗めると
首を横に振って 目をつぶる
まな板の魚の目から ボトボト水滴がこぼれていて
新米看護師が むしゃくしゃして
いきなり三角ポストに投げ捨てた
(臭いものには、蓋をしておきなさい
主任の命令で 新米シェフの手が
父の瞼を 下ろしてゆく
夜の創作料理の失敗例とそのプロセスを
ベテラン看護師が ファイリングして片づける
(介護と飼い殺しは、似ていたね・・・
私は夜のシェフたちが秘密で作り上げた
父の亡骸スープのレシピをどうしても知りたくて
空になった鍋の中 ギラギラ光る眼二つ
遺っていないか 漁りだす

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目覚めゆく魂

敵を射ぬく弓と矢、そして強靭な 弦
それは凛々しく張られた頑なな 強い意思
どんなに強く張られた弦でも 名手にかかれば 引き伸ばされ
心身一体となって 矢を放ち的を射ぬく
人を酔わす バイオリンの弦、ピアノ線、
人の首を瞬時にして 切り落とす弦でも、殺める指先に
奏でられたなら たおやかにしなだれて 至上の愛を奏でるだろう
私をふるわせた男の指が 私のいどを汲みあげて濡らしている
濡れた楽譜から 潮騒が聴こえる
(あの楽譜は なんという協奏曲なのですか
(男と女が笑いながら 殺し合うあの曲は
夜明け前の闇の深さは 男だけの暗黙の了解
その深淵にいて 私を柔らかくするために
あなたは私について語りながら 水を汲み出す音を味わう
強がり続けた私の踵を 足先からあなたは抒情詩でくるみつづける
長い指が弾き出す旋律は 目の前の少女が女の顔に消されて逝く慟哭
私の脳裏に幾つもに亀裂が走り
私の強さをしなやかにしたたかに織り変えていく
あたたかい手つきが奏でたその端が差し込まれると
唇から沁みる 初めての潮の記憶をたどる
ああ
私の部屋で一本の針葉樹が伸びていこうとしている

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夜行

闇色のコートの肩に刺さる
いくつもの銀糸の雨を
拭ってあげることもできないままで
私は冷たい夜を行く
棘のある視線を伏せて
唇だけを動かして見せたけど
今さら何を伝えたかったのだろう
何者にもなれない 不透明で無機質の私が
腐らせ萎れさせた 紅い花
闇色のコートが濡れているうちに
ひらいた唇を押し当てたなら
なにか、を 咲かせられただろうか
戸惑いが瓦礫のように降り積もる夕暮れ
アパート窓辺には  
無言の夜に苛まれた 唇と薔薇が
闇に したたる

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腐る、父の見る夢に、腐る家。

家に泥棒が入って 大黒柱にタイマー付きの爆弾を
何ヵ所も日時をずらして 仕掛けて逃げた
百二十年続いた掟や道徳心や慣わしまでも
少しずつ破壊していく
傾き始めた家の 頭は白蟻に食い荒らされて
かすかすに表皮が剥がれ落ち 柱の内臓が腐っては
昔 松ヤニを溢したあの樹液すら その樹皮の裏側で
細胞は核爆発を繰り返していた
盗まれたものは なにもなかったが
そこで暮らしていた団子虫たち、つくもがみは
家の頭に風穴が空くと そこから入るすきま風に
はじめて冬の寒さを 知る
柱時計はおやすみなさい、を告げると
もう 針を動かすことを放棄した
(父は腐る、父が腐る、癌におかされた毒素が頭を這いずる
(それでも 出来るだけ人間らしく逝きたいと願いながら
(生き長らえる夢にすがり 時々私たちの行けない所まで
(飛んでゆく頭、を 見送るしかない、小さな母と小さな私
家が永い夢を見ている、
自分が腐っていることを、自分が腐っていくことを
せめて泥棒と 家主たちには悟られまいと、
心臓に穴が開く前に 斜めにずっしり倒れては
こめかみを 何度も何度も床に打ち付けた
(おやすみなさい、私たちは永い夢を見ている、

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名詞

手紙という名詞一つで嘘をつき君はすべてを赦されている
真実に名前があるとするならばいつかは弾けるウルトラソウル
なぜ愛は中心に置かれて赤くなるデーターベースの中が夕焼け
種という記号一つで結ばれた僕らは美しい本の虫たち
みみたぶをかむようにしてあじわいたい ことば ことば やわらかくして
腕時計放り投げた昼下がり靴音が鳴る じぶん じぶん
運ばれる私の名札や荷札たち整理できない片づけられない

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動詞

人を、愛、する、 ということに、疲れて、しまった、人の
愛、している、というものに 縋りってみたくて 家出した
「し」はいつも隣り合わせに居たし 
高速バスに頬づえつく、くらいの、考える、という距離
移り変わるものは 季節ではなくて人の心
速度をあげて回転するタイヤの円周率、三.一四.一、
幾度目かの春
無限旅行を続けなければならない 
あなたにとっては 終わりの
私にとっては 始まりの 春
車窓の景色が変わるた毎に 傍にいた人は
伝言をのこして 下車していった 
何を彼らが言いたかったのか 夕陽が傾く頃
終点の改札口の駅員さんが パチン、と
切符を切った音で気が付く
今日の日付変更線が変わる前に 
飛行機に乗らなければならない
たそがれ、を飛ぶ真っ赤な色に染まった
カモメのような 淋しい飛行機に
人を、愛、する、 ということに、 疲れてしまった、人の
愛、している、 という風景を 私は見ていた
「し」というものが 目から夕陽を零して落ちていく度に
私の、わたし、が 泣き止まない
 (水は 一か所にいれば濁る
 (流れなければ息ができないのさ、君も人も僕たちも
 (燃える水になりたい、濁った油のようでなく、
 (水のカタチを宿したままで どこまでも、どこまでも、、
飛行機は私だけを赦して 飛び去って逝く
誰の背中に乗って ここまで来てしまったのだろう
誰の背中に寄りかかり ずっと泣いていたのだろう
 (流れるまま 炎のように生きなさい
 (浄化の源泉を 湛えて歩め
「愛する」ということに 「疲れてしまった」人の、夢の中で
私は「愛せる」というふうに 現れる
    緋色にゆらりゆらりと ゆれる夜の焔
    決して焔に溶けない 蝋燭が二本
    枯れないカーネーションを 活けつづけ
    ひび割れた老眼鏡を 置く
旅去った者たちよ
私はあなたがたが名付けて遺した 唯一の動詞だ

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