レンタル長女。

レンタル長女。
 長女でしょ!しっかりしなさい!と言われる度に、長女なんだから、長女なんだから、長女なんだから、長女なんだから…と、いいきかせたら吐き気を催し、長女の羅列が、止まらないレシートのように繋がって、口から出てきました。
 壊れたレジで計算されたレシートの最後、
「長女 レンタル費 0円」と、書かれています。さっきから、ずっと、お腹が痛いのは「しっかりしなさい!」が、響いて、「長女ではなく長男が欲しかった!」両親の本音をお腹が透視していたからです。
 長女なんだからしっかりしなきゃ、長女なんだからしっかりしなきゃ、長女なんだからしっかりしなきゃ、長女なんだからしっかりしなきゃ…、止まらない透視方が、またお腹を痛くする。
お母さん、お腹が痛いよう。お薬を下さい。            口から吐くものを押し込めたら、下から漏れていました。
 いつも、トイレに間に合いません。
 お母さん お母さん、長女って、こんなにも赤い。長男だったら、こんなに赤くはならなかったんですか?
 私がゴミ箱に捨てた子供たちを、父親が毎日覗いては、数えて笑っているのも、私は知っています。
 お腹が痛いよう。
 誰か…誰か…、お薬を下さい。そうすれば元気になって、お父さんを殺せるのに!
 お母さん、まだお腹が痛いよう…。
空(カラ)だ、の中で真っ赤な夕陽が沈んで逝くの。やがて、月がでるでしょう。満潮を誘う夜の果てに、私は独り、海に潜って、阿古屋貝の閉じた口を、何度も何度も、ナイフでこじ開けて、泣きます。私が探しているのは「少女」です。両親に封じられた女の子。波に浚われたままかえってきません。水面には長女というペラペラのヒトガタが、浮くばかり。
私は、阿古屋貝の口を開けては、「少女」を探しています。
 (あるいは、両親の望んだ長男を?)
早く出してあげなければ、また波に浚われて、やがて腐ってしまうでしょう。
真っ赤な月が出ています。アソコには、あなた方が望んだ長女がいるかもしれません。それとも、私が探している少女が、もしかしたら…。
 月が余りにも、赤いのです。まるで、何かを裏切るように、空には、反逆の目玉が光っています。
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背中に触れる

背中に触れる
男の顔は 必ず前を向いているのは
右目で 敵を見破り
左目で 見方をつくり
いつも ギラギラとしているのに
その背中を 見せようとしないのは
孤独が貼り付いているのを
女に見破られるのを怖れるからだ
人生を受け渡せる女(ひと)に
生涯の夢を託せる相手(やつ)に
間に合わないで 志し半ば
白い箱に拘束されて逝くのは
男には 似合わない
だから あなたには
いつもナイフを研ぐことだけは止めないで欲しい
いい時代だったと語る
リアルなあなたの歴史を
錠剤やチューブの管で
口封じされることを
私はおそれている
そして 出来る限り
あの下町の汚い言葉で 罵り
私を 叱り飛ばして欲しいのに
あなたは私に 全てを話してしまって
私は何も言えないまま 頷くだけで
食べられない食材 高級料理を
私の為にだけに 口に運べ、 といい
無理をして自分の胃に
ストレスを流し込み 涙を押し込む
あぁ
どうしてそんなにも
私のワガママを 許してしまうのか
あなたは いつも怒っていた筈なのに
どうして
後ろ姿を見せるのか
どうして
優しい顔で黙るのか
あの ナイフは錆び付いてしまったのか
ちいさくなって やさしくなって
痩せてゆく
あなたの背中に触れたら
あなたが プロデュースした
キネマがまだ回っていた
女の前では
男は嘘が付けなくて
見栄しかはれない不器用者
全て見抜かれてもいいように 許すから
私は 男の背中に触れるたび
出来る限り 優しい言葉で
背中をさするように
刺し続けていくだろう
まるで それを詩にするように
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足の裏

足の裏
言葉は饒舌だ
裸足は寡黙だ
文字は答えを問いかけるが
足の裏はそれを踏みつけて
歩み行く
アスファルトの上の
フロント硝子の破片たち
昨晩事故で死んだ
恋人同士の形見
また、私
踏みつけてゆく
散って腐って逝く
椿の最期の吐息
また、私
じりじり
踏みつけて行く
詩とは
なんと寡黙な足の裏だ
その下の残骸
その下のくれない
下唇を噛み締め
上目使いで景色を
見つめながら
私の足の裏は
炎を踏みつける
言葉にいつも
置いてけぼりにされても
私は
本棚には棲めない
裸足のままの
足の裏でしかない
歩め
まだ私の中の
あの子が泣いてる理由が
分からない
歩め

自らの足で
その理由を踏みしめて
越えて行け

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恋獄

恋獄
駆け引きの
煉獄の恋に
繋がれて
交換したい
あなたの孤独
淋しさに
降り注ぐ雨
しなやかに
あなたを濡らす
わたしを濡らす
哀しみを
愛(かな)しみという
一文字に
変換出来ない
自分がキライ
独りという
夜に殺され
裁かれる
わたしは此処よ
わたしは個々よ
傷口を
舐め合うように
キスをする
舌から漏れた
さびしい さびしい
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ジューン・ブライド

ジューン・ブライド
「六月に結婚する花嫁は、必ず幸せになるんだって。」
そんな宛もない煽り文句から仕組まれた
ジューン・ブライド
花嫁は純情を誇示する白百合のブーケを
青空にほおりなげ
幸せの候補者にバトンを渡す
ハネムーンの門前を
引きずる純白のドレスの裾を
上がりぎみの口角線を
たどってみれば
二次会の最終電車
帰れない男たち
路線から落ちた友人を
男手三人 
プラットホームに押し上げる
くだを巻く群衆と
男たちの 吐く 吐く 吐く
四つん這いの嗚咽 
ズボンから飛び出したベルトとトランクス
拳と拳 罵声と叱責 
落とした免許証 
行き先が分からない迷子の切符
夜を渡る巨大な蛇に呑まれた人々を
六月の花嫁は振り返らない
駅には【おめでとう】のカードを握りしめた
レースにくるまったままのキティ人形
黒い二つの猫の目だけが
夜を映して まだ
ご主人様の帰りを待っている

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百足

百足
今朝、床の上に大きなムカデが、這っていた。
私は、スリッパで、踏みつけて、殺した。
何度も、何度も、踏み続けた。
スリッパの下から足の裏に伝わる細長いふくらみが、
ベシャベシャ足に、へばりつく。
―――何度踏んでも、死なないムカデ。
   (オネガイ!ハヤク、ハヤク、死ンデヨ、
             イタイ、イタイヨウ…。)
痛い。
と、思った。
刺されたわけでもなく、私がムカデに何かされたわけでも、ない。
ただ、土足で家に上がりこんだだけで、
やがては、家族を咬むというあやふやな予感だけで、
咬まれたら、死ぬかもしれないという先入観だけで、
私は直ぐに踏みつけたのだ。
私が、踏んで踏んで、踏みつけて、(踏みにじった)赤黒い丸い塊を、
金ハサミで、庭に打ち捨てる。
その後、ムカデがどうなったかについては、は知らない。
鳥の餌食になってついばまれたか、蟻に集られて、黒い穴で、食いちぎられたか…
そして、私も、すぐ忘れていくだろう。
けれども、あの腸も血も真っ黒な生き物こそ、私では、なかったか・・・。

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紫陽花

【紫陽花】
透明な蒼をたたえた僕の傍に 一房の紫陽花
「ねえ、紫陽花の花言葉を御存知ですか?」
意地悪そうに 僕を見上げて
刺さったままの あの日の視線
やわらかな微熱の風が 
今 紙とペンの間を 通過してゆく
 僕たちにバーボンは似合わなくて
 カクテルのようにも混ざり合えない
 バニラエッセンスの薫るホットミルク
 ウヰスキーを忍ばせたブラックコーヒー
 寄り添ったマグカップの中
 沈んでいたのは 僕らの未来
 マーブル模様の天気予報
売れない小説家の僕に
貴女はちいさく笑ってくれた 一房の紫陽花
「ねえ、紫陽花の花言葉を御存知ですか?」
淡いピンクに戻れない
雨に濡れたままの いつかの 紫陽花(しようか)
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のぞき込んだのは

のぞき込んだのは
真っ暗い空に
月の船が
帆をかけて行くよ
  ひかりをあつめて
  なみだをわたるよ
月の船が
夜を越えるよ
  きどうのさきに
  きぼうをのせて
 帆をかけて
  哀しみすらも
   呑み込んだ
     月の船
柔らかに浮かぶ翳り
やみくもに伸ばした微熱
そんなあなたの満ち欠けを
映した地上の月鏡
覗いてごらん
 語らない物語
 胸に沈めた迷宮
とおい日のあしあとを
追いかけながら
泣き出した
あなたが唄う
いつかの哀歌(エレジー)
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ちゅうせい

ちゅうせい
君は僕に女になれというのか
着物に白い足袋と草履を添えて
君は僕に女を魅せろというのか
胸の重みを感じて
泣けと
君がみた
春画が僕だ
君の詩集の
あ、ふれる
の文字が僕だ
僕を見る君の眼鏡は
赤外線装置付きの
魚眼レンズ
もう
知っているよ
君に裸を
晒して歩いたことも
君が風になって
撫で回した指も
でも
僕は中性
忠誠を誓った人にだけ
僕は女装できるんだ
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名前

名前
同じ夕暮れをみていても
もう同じようには
見えないのは
目が人に 二つ
あったからだろう
その片目同士に
光と逆光の速度で
墜ちて逝く夕日を
僕たちは
【綺麗だ】という
形容詞で簡単に括って捨てる
笑っていても笑っていない
視線の路地裏の店を
さすらえば
君のお腹の中に
贅沢な珍味たちが
放り込まれていたのを
僕も一緒に
漁っている所が見えた
同じものをみていても
綺麗と綺麗事の
区別のつかないような愛に
名詞をつけるなら
ヨルと闇
くらい、の
覚悟

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