悪意の道先案内人

悪意の道先案内人
良く思われたいからの
ひとことが
言われるままに都合よく
放り出されたので
世渡りの処世術を見破った
頭も目も逆さまだったら
月は夜
ひとことに 愛の錬金術を覚えただろうか
 私の文字や言葉が
 鏡に曇るのは
 鏡に裏表があったから
 かもしれないし
 また
 私がもともと
 曇った顔つきだったから
 映ったまでのこと
ひとことで傷ついて
他人事で大火傷
せっかちな詮索好きの前頭葉
ひとことで片付ける
手間要らず
バランス失う後頭葉
アンバランスな距離と溝
温度は棲めなかったと
泣き去った
ひとことの先の
めんどくさいが被害妄想に
ちょっかいだして
目があえば
会うたび毎に
鬼が笑って
ひとこと先の地獄行き
一寸先に詩が笑う

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【あ、いたい。】

【あ、いたい。】
宇宙の孤独が理由をつけて
詩人や芸術家や思想家に
淋しさについて
夢想させると
男は全て叡智に滅ぶ
宇宙は嘆き
その哀しみを
女に託し
愛しい愚かさを与えると
全ての女は炎になった
怒りは人を殺し
孤独が人を殺し
心はビッグバンを
おこしながら
やがて知恵と
手を結び
初めての軌道を渡る
新星が 宇宙の孤独に
光を差し込む
その輝きが
あなたとわたし
シンパシィする
空のよろこび
海のかなしみ
この惑星の
男と女
愛、痛い、する
心と心

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咲かない花

咲かない花
茶色いトタンの家に咲いてる花は
赤い蕾の 冬の薔薇
トタンの家の軒下で
幾重もの花びらで 身を守りながら
固く口を閉ざしたまま
陽のあたる逆方向に 咲いた花
もしかしたらこの薔薇は
自分が薔薇であることも
自分が赤いということも
自分が花であることも
忘れてしまったのでしょうか
遅咲きの馬鹿馬鹿しさを
取り残される悔しさを
霜にまみれて 蝕まれていく痛みを
悟ってしまったのでしょうか
それとも
お薬を与えられ 人の手で
ひんしゅかいりょう、されてしまった
自分のことまで
知ってしまったのでしょうか
冬の陽差しの中を 車が一台
家族みたいな 三人を運んでゆきます
父親らしき人は 
請求書の束を見ては 痰のような唾を吐き
母親らしき人は
年末に米粒みたいな愚痴をボタボタこぼし
娘みたいなものは
手招きする
枯れたススキの大群を 横目にしながら
うつむいて 真っ黒い文字を書いています
冬の陽光は
この不自然な 真っ黒い車と人の影と文字を
斜めから照らしては 平行四辺形に切り取り
そこに 対角線を引こうとします
それは 世界の誰もが見ている
そして 知らないことなのです
飼い猫が布団の中で眠っています
優しいご主人様の夢を見ているのでしょうか
もぬけの殻になった家から ご主人様は今頃
お前のことなど 忘れて
びょういん、に向かっているのに
呑気で可愛い夢見る猫も
うつむいてどこまでも黒い文字を
ノートに走らせる娘も
咲かない花の秘密に近い場所で
やっと 息をしています
咲かない薔薇
咲かない花
咲かない赤
たくさんの人の 期待を裏切って
たくさんの人の 恩を裏返しにして
腐る花
何を握っているのでしょう
そんなにも 頑固に一途に 意地悪そうに
 人々はいいました
 愚かな花、役に立たない色、
 折角買った赤薔薇のくせに高いだけか!
 全くやりきれないですね・・・!
 そんな言葉を みんな
 はちうえの中に隠して 蕾を見みては
 「見守っているよ・・・。」と、いう嘘で
 囲いを作って 一生懸命 温めようとする
     
薔薇は咲かない
娘は口をつぐむ
猫は夢から抜け出せない
そして 車は・・・
薔薇と同じ 光の射さない方向へむかって
はしる

詩と思想2013年四月号・現代詩の新鋭特集号掲載原稿。

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生きることは
淋しいことだ

男は言った
女は
愛された後は
死にたい

直ぐに逝った

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惜春

惜春
羽化する
蝶の
ぬけがらたち
寄せ集め
寄せ集め
淋しい

割れる
集団の骸

残酷に
羽たちが舞う
主体性も持たずに
ただ
季節の
言いなりに
顔を合わす
ひび割れた
故郷の家に
振り向きもせず
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はぐれる

はぐれる
それをして楽しいですかという人に楽しいですよという寂しさ
暗闇に電球の灯りひとつだけ世界に響け携帯の指
悲しみを足しても割れぬ性格を瞳を閉じて飲む錠剤
悴んだ指先ひとつ燃える火を怒りと呼ぶな号泣と呼べ
朝が来るいつものように朝は来る起きてる夜に私は亡霊
静寂に包まれ身体はコチコチと骨を削る音(ね)時計コチコチ
うまくやれうまくやれよとよわたりをうらもおもてもあるいてわたれ
置き時計短針長針ずれてゆくそんなふうにはぐれ外され
僕の声叫んでみても憎しみが飛び出すだけの冬の空き部屋

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抒情文芸 146号 春 小島ゆかり 選  佳作短歌

それをして楽しいですかというひとに楽しいですよという寂しさ
抒情文芸 146号 春小島ゆかり 選佳作短歌

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携帯を濡らす

携帯を濡らす
あなたの為に携帯を濡らす
秋の力ない弱い日差しから
聞こえるあなたの
柔らかで 穏やかな声が
枝枝の葉を 全て色づけて
あとは 風に散りゆく運命を述べたから
あなたのいなかったモノクロの世界から
この世界の美しさを 文字で彩って
私に言葉に直して 声に出してくれた人よ
あなたが 時の風に連れ去られても
同じ木に寄り添った
葉たちのことを思い出して欲しい
まだ
残響するあなたの
穏やかな哀しい非命に
携帯の画面を濡らすことを
赦して欲しい
この携帯が あなたの墓標
もう だれにも
あなたを見せたくはない
わたしは 涙に濡れた
ディスプレイを閉じて
平らな器に 水を貼り
静かに 携帯の
息をとめるように 
あなたを 沈める

抒情文芸 146号 春
清水哲男 選
入選作品

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背中

背中
男が背中を見せたとき
女なら 赦されたと
想いなさい
その男を刺す権利を
授けられてしまったと
男が背中を見せたとき
女なら 黙ってついて
行きなさい
彼の残した足跡に
自分の靴形を
残せるよう
男が背中を見せたとき
女なら 涙を流して
あげなさい
孤独が彼を
殺してしまうと
背中は黙って語るから
目が聴いてしまうのです
子供の嗚咽
夜の潮騒
最期の寝息
私は 触れた
彼の背中

狂気の始め

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一番最期に死ぬ人

一番最期に死ぬ人
一番最期に死ぬ人は、一番勇気のある人です
良い人ほど、早く死ぬ、と いうのは嘘です
一番始めに死ぬ人は、残された人に見送られる幸せな人です
沢山 お世話になった人の行く末も案じながら、死んでゆく
それは、悲しい未練話のカタルシス
一番最期に死ぬ人は、一番最初に死んだ人を見送って、
それが昔 憎んだ輩であったとしても
それが、騙された女や男であったとしても
妙な 仏心に浚われて
歯を食いしばって、死んでいた敵や味方のために泣く
人の為に泣ける人
一番最期に死ぬ人は
多分 誰にも 泣いては もらえない
一番最期に死ぬ人の
未練を 引き継ぐ者もない
一番最期に死ぬ人は
そんなことは
昔から 覚悟しきっていたのだから
死んでも死にきれない強い人
悪人の方が長生きするなら
悪人はもしかしたら
最高の善人
だから
みんなで
大悪人を競い合って
一番最高の善人の為に
今 涙を流してあげてください
見送るひとが 見送られる
病魔は必ず 忍び寄る
だから みんな 悲鳴を上げながら
悪人を目指す
痛みに悶えて
古傷を世間の風に晒されて
それでも なお、私はいう
君たち 全て
人を見送る
最期の独りであれよ と

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