疑惑

疑惑
真っ黒い木々の影の中をさ迷うように
真っ赤な夕立の雲間から黒い雨粒が
車窓を叩きつけるように
走りゆくバスから
移ろいゆく黒いものたちを 目の当たりにしながら
避けることも 拭うことも 取り払うことも出来ず
私は逃げるように
走り去る 風景に
黒く 追いかけられる
赤黒い夕立雲から
紫の雷が 空を裂いて
私は私を 試され 裁かれる
さっき 喋っていた友人の笑顔が
鏡にしか映らない
まるで
模写された黒い鉛筆画のように
ものひとつ 言えなくなって
額縁に入れられたままだ
どんなに
手を差し伸べても
あなたの肖像画は
届かない赤い空に引っかかったまま
私を 見下ろしている
狭い枠の中から
美しいモナリザの微笑を
裏返したような顔で
私を
白い目で 追い詰める

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手紙

手紙
「私はコトバで 人ひとり壊しました
もう 誰も傷つけたくありません。」
封書された手紙から
嘘の匂いが漂って 開封後には煙にまかれた
あなたは 余所行きの横顔で
ペンをしっかり 握ったまま 離さない
今も まだ
同じコトバを 手紙に認(したた)めている

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君が全てだった日

君が全てだった日
君の好きな赤ワインを買ったんだ
コルドンブルーは 
高すぎて いつかの夜に
染まってしまったけど
アルコール好きの君のために
飲めないトロを買ったんだ
クリスマスプレゼントは
ここに残しておくよ
僕はまだ
飲めないトロや
鬼ころしや
入らなくなった薔薇のリングを
並べては
居なくなった君に
渡せないプレゼントを
まだまだ 詰め込んでいる
ここに 置いておくよ
君が見つけてくれるころ
ワインは熟成されて
涙のような水に
なってしまっていても
君の好きなものだけ置いて逝く
そして 君が最も嫌った
この文字ですら
望まれないまま
塗りつぶされても
君を愛していた日々は
まだ ワインより
赤いんだ

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 パチンコ屋の換金所の前で、もう何時間もひとり遊びをしている子供がいた。
 台車の棒にぶら下がったり、独り言を喋ったり・・・。
 どうやらこの子の両親は、パチンコに夢中になっているらしい。
「おばちゃん、コレ開けて。」
 ガチャガチャの機械から取り出したプラスチックの、丸いボールの蓋を開けてと言う。
「ありがとう」
 女の子は無邪気な笑顔で、再び換金所の前に座る。
 夕日は、傾きかけていた。
 ”この子の親は、どうしているのだろう・・・。”
 そんなことを考えていたとき、それを見ていた私の母が、
「あの子は、強い子になるだろう・・・。孤独ということからは強い子になる。」
と、言った。
その時、女の子の母親らしき人が、
「もう、中で遊びなさいって言ったじゃない!」
と、女の子の手を、強く引っ張る。
 その子は母親の大きなお腹を擦っては、
「赤ちゃん、赤ちゃん。」
と、言い続けた。
どうやら、母親は、妊婦らしい。
そして、換金所で働く母の話では、毎週二回、土曜日曜、女の子は換金所の前で、遊ぶ。
   【孤独から強い子になる。】
 母の一言が、頭の中でリフレインする。
 
 果たしてそうだろうか・・・?
 今度は赤ちゃんが生まれるというのに。
 赤ちゃんが産まれたたら、母親は姉になるその子の面倒までみれるだろうか。
 幼い頃の愛情不足が、大きくなって暴走しなければよいのだけれど・・・。
 その子も寂しい。私もなんだかやるせない。また、パチンコでしか満たされないその子の両親すらも。
 
 いつからこの国は、こんな孤独な社会になったのだろう。
 夕日はもう、とっくに沈んでしまったというのに。
 こぼれたパチンコ玉を見つめながら、
少女は自分にしか分からない唄を歌っている。
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冬の隙間

冬の隙間
冬の隙間
スマートには
生きれません
私はいつも
泥だらけの長靴を
履いているからです
偉いことなど分かりません
指先の感覚だけが
頼りです
笑われてなんぼです
けれど
自分の笑顔には
胸を張りたいじゃないですか!

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ひとつだけ

ひとつだけ
ひとつだけ
赤い花をひとつだけ
身体に隠した赤い花
ひとつだけをプレゼント
あなたのナイフで
花占いの遊びがおわっても
もとには戻らない
女の子の色
ひとつだけ
大切に契られた
私の身体の初めから終わりを
確かめながら
あなたは数える
私の忠誠心
涙を隠して
ひとつだけ
赤く咲く声
夜を裂く

ひとつだけ

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重ねる

重ねる
紅蓮の炎に燃え立つ
昼間の怒りを
黒い夜で鎮める
乾いた瞳に涙
汲み上げた水で
朝 顔を洗う
日が昇り太陽が
身体を焼き焦がす
日が沈み
濡れた風に身を晒す
囲まれた枠の中で
人生模様が
重ね塗りされて
濃さを増す
昨日より今日
今日より明日
怒り 悲しみを塗りつぶし
喜びを笑顔で照らしだし
一喜一憂の彩りの
重ねながら
人は
自分だけの絵を
完成させてゆく
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樹海の輪

樹海の輪
カラカラと糸車を誰かがまわしている
その糸車の糸に多くの人の指が絡みつき
血塗られた憎しみの爪をのばしたり
いびつな恋敵の小指たちが
ピリピリと過去の妄念に反応して
親指は絞め殺されるように働きながら
天に一番近い中指に嫉妬しながらも
糸を燃やそうとする
カラカラと糸車はまわる
それは乾いた土地であり
それは渇いた喉元であり
蜘蛛の罠に引っかかった蝶が
食いちぎられていく羽の墜ちる音(ね)
最期の 悲命(ヒメイ)
   *     *
  (カラカラカラカラ・・・)
   *      *
さっきから大きな毒蜘蛛が樹海を編んでゆく
その下を長い大蛇が這ってゆく
細かい切れ間から もう 青空は望めない
蛇の腹の中で元詩人(ゲンシジン)たちの群れが
溶けて泡を吐く
見えない空
地上にない文字
樹海にはそうゆうものたちが浮遊して
死人たちがそれらを夢想して
この樹海を成立させているのか
乾いた音だけが響いてくる
    
    *       *
  (カラカラカラカラ・・・)
    *       *
誰かが糸車をまわしている
けれど
その糸にしがみついた多くの紅い情念たちが
歯車を狂わせてゆく
糸車をまわしていたのは誰だろう
それは 樹海をでっち上げた白い骨の妄念
散り散りになった散文詩
痩せた木の葉たちが 風に吹かれながら
くるくる回り続け
重い陽差しの切れ間を脱ぐって
やがて 土に還る
      (カラカラカラカラ・・・)
(カラカラカラカラ・・・)
     神は
      呼吸をするのを
         やめたらしい。  

      ※ 詩と思想新人賞2012年 第一次選考通過作品

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世界の中心

世界の中心
悲しみを踝までに浸しては裸足で歩む触れたい背中
盲目の行方不明の両目たち夜を跨いであなたの夢へ
子守唄自分の為に歌っては涙を流すもうひとりの君
ただひとり私を信じてくれる人裏切りらないで夜明けの朝日
すぐそこに冬が来るから私たち肌のかたちが かまくらの熱
嘘つきと虚構と事実と小説と孤独と愛が詩人のスパイス
夜の闇静寂を滑り会いに行く私はいつかの御息所
箸が折れ携帯壊れヒステリーそんな私を畳んだ笑顔
いつの日もいついつまでも愛してるあなたはいつも世界の中心
 

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メモ帳

メモ帳
あなたにもらった皮表紙のメモ帳に
文字がかけないでいる
昨夜の喘ぎ声の悲しみに言い訳したり
今日私についた嘘について説教してみたり
明日出会う友人とセーラー服を着ることを
全て
メモ帳に語りかけているのに
文字にはならない
変わりに
涙が零れて
真夜中にクチュクチュ鳴る指から
水蜜桃が割れて溢れ出て
親友の彼氏のノロケ話を
スィーツにして
あなたのくれたメモ帳が
重みを増して
日常生活の私の一部になるように
無声の私が
沢山ページをめくっていって
本当のことを言うと
メモ帳は
たった3日間で
全て書き込まれ
私の胸のポケットで
心音に温められては
鼓動だけを刻んでいる

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