生きる夢とあちら側

生きる夢とあちら側
同じ道違う道ゆく人が交差する句読点の分岐点
誰のため生まれてきたか知りたくて空に手を伸ばす昔の少年
地図にない街を自分で創っては嘆いて壊す生きる手応え
現実と汗と涙の狭間から出てくる夢は「自分を信じる」
容赦なく削らてゆく命の火ちっぽけな人が人を照らせる命の火
育つ愛誰の手のひらにいよいとも最期は黙って独りぼっちで
過ちは愛したほどに狂おしく君の胸には棘を遺して
どこまでも続く坂道を登りつめそこから何が見えていますか
もう耳も目も見えないし動けない私を見ているそれは神様

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愛憎

愛憎
恋すれば恋するほどに憎らしく裏切り者の手首を切る朝
親だとかウザイばかりの関係を洗い流した血色の風呂
おとうさんもうすぐ死ぬ死ぬいうけれどあとどれくらいお金がいるの?
おかあさん体が動かないというけれど病院通いはいつでも達者
口ばかりたつ子は要らない家の為働けない子は施設送りに
真似事の詩なんて書いて家の恥さらす詩集に払う金なし
好きな人信じてみても届かない嘘ばかりつく触れない人
ついていこう何度も決めたの君の名をナイフで抉り安心した過去
愛すれば愛するほどに美しく殺めるように絡んだ身体
蛇の恋雌雄の区別がないほどに永い間揺すれ揺すられ
口づけた舌が解けた日の朝にサヨナラだけの言葉を遺す

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私は赤いハイヒールと、仮面を着けてワルツを踊っていた。
男は、ずっと私をリードしながら テンポ良く
ワルツの足運びから、姿勢、目線、腕の置き方から
全て優しく教えてくれた。
いや、この場合い、教え込んだと言うほどに
長い時間、男と踊っていたのだと思う。
舞台は、高層ビルの最上階にある灰色の屋上だ。
男の顔は見えない。
私から見えるのは優しい声の下に秘めたように時折顔を出す
チロチロと地獄草紙の炎のような舌と
首筋にかかる男の妖しい息遣いだけだ。
首から下の裸身は程良い汗をかいていて胸板が月に照らされて
なまめかしい臭いを放っていた。
くるりくるりと大きな円を描きながら、リズムよく
二人のワルツは流れる。
男は自嘲的な声で私にこう囁いた。
僕は君の仮面の下を知っているよ。
でもそれを言い当てれば君は僕を殺しにくるだろう・・・。
そう言いながら、あの蛇のような舌を私の中に差し込んで絡みつかせた。
私は仮面を取ろうとした、苦しい、息ができない、そして熱くて激しい。
私の舌は男の口に吸い取られるように、飲み込まれようとする。
もう・・息ができない、このままこの儀式が続けば、私は死んでしまう!
私は男の舌を噛み切った。絡み合う唇の中で
イチジクの実が裂けたような味だった。
男はもつれる舌で言った
君が君の探し物を見つけるまでは僕は君に殺されない。
そして君は僕に殺されるように愛される と。
男は言い終わると屋上から身を投げた。
私は一人で上手に踊っていた
男が教えたステップで 男の舌を味わいながら
ずっと ずっと 上手に踊れるようになっていた。
     *        *
賑やかな音がする。 夏祭りだ・・・。
アイスクリームを買ってくると言った彼氏がいなくなって二時間。
私は人に揉まれ人混みをかき分け、彼を必死で探した。
新調した白い浴衣とピンクのあじさいは転んだ時に色を変えた。
顔は泥だらけになって彼を探した。
いつしか私はしゃがみ込み声を上げて彼の名を、叫んだ。
私の喉はしゃっくりをあげカラカラに渇いていた。
膝頭からすりむいた赤い血が塩っぽい涙を零してじわじわと沁みた。
赤い鼻緒の下駄は 片方なくしたまま片足は裸足のままで
彼のために小さく結った髪も、ばらばらと半分顔に垂れ下がり
私の着飾った想いとは裏腹に、道行く人の失笑が
ますます私を惨めにさせた。
ふと緩くなった帯留めの下に隠していた鏡をのぞくと
そこには、恋に破れた小さな「魔女」が泣いていた。
探しても探しても彼は来なかった。
ほどける金魚のような自分を引きずるように
泣きながら独りぼっちの家に帰る
恋しかった 会いたかった 
最後まで傍にいてくれると信じていた。
    *         *
高台からそんな私の姿を見つめて笑う男がいた。
彼はずっと見つめていたのだ。
真っ直ぐ自分だけでいっぱいになってぼろぼろになってゆく
私を、この大勢の人混みの中でも真剣に見ては微笑んでいたのだ。
そして一言
なんて君は素敵なんだろうねぇ
僕が望んでいたのはそんな風に泥にまみれて綺麗になってゆく君
僕のために血を流し傷ついても僕を探す君だよ
あぁ、そんな君をずっと探していたのは僕の方かもしれないのにねえ・・・(笑)

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エデンの園

エデンの園
右手にローションと媚薬
左手にベトベトの携帯電話
じんじんする
私の空洞を埋め尽くす
あなたからの電波
我慢できないエクスタシー
焦らす駆け引きを
鳴きながら 呻きながら
空へと放射する
燃えるよだかの君
携帯からさらけ出される痴情(地上)の波
分子量から核融合される遺伝物質
垂れ流した愛に
降られた酸性雨
隠していた小型船が
宇宙に溶けながら
漕ぎ出してゆく
肥大を続ける二つ星
月が赤く欠けてゆく空
蕾が静かに花開く夜
右手に携帯 左手にあなた
二つを天秤座で計れば
同じ比重
それを知っているのは
遠い夜空に消えた
カムパネルラだけ

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蛇を呑むその毒素でまた蛇を殺し合いは果てなき蜜月
毒を知る毒の味だけ信じてるそんな乾いたガラガラの蛇
はむ術を成す術ばかり教えられ恋しあなたを絞め殺したい
大蛇なら呑み込まれたい私ごと溶かしてやりたいあなたの腸
雌雄さえ区別がないなら私こそ大蛇になってあなたを食らう
絡まった隙間もないほどピッタリと擦れあう音解けぬ痴情
極楽があると言うならば蓮は無く血の池からは紅の薔薇
毒食らう蛇に熟れた私なら喉は乾いて身体は濡れて
虚言でも身体ではなく魂が震えるような言葉の愛撫
罪人が贖いがてらに恋ひとつ呑み込んだのは言葉言葉
卑しめて辱めて串刺しにされた夜から血が止まらない

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惑星「メバチコ」

惑星「メバチコ」
突然の痛みが
第三惑星に感染し
海が濁りだすと
真昼の光が奪われ
隣の双子星の
金星からも
硫酸の雨が
降り続ける
透明な粘膜が
セロテープみたいに
オゾン層に張り付いたまま
星星は
盲目の夜を
迎えに逝く
公転していた中核の行方は
膨張し圧縮された
ブラックホールの
餌食となり
乾いた土地は砂塵に帰して
もう
花々を見ることも
叶わないだろう
大切な核心は
こうして
滅んで逝く
それが
眼(まなこ)であろうと
地球(ほし)であろうと
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殺到

殺到
朝日が昇る前におはよう
トーストにはイチゴジャム
フライパンにはチャハーン
父の胃袋には大量の薬
母の頭には被害妄想
洗髪には水と髪
背中には塗り薬
洗い場にはスポンジとチャーミーグリーン
仕事のあとには疲れた
暑さに目が回る扇風機
刈り込み先では蜂の巣退治
畑には害虫駆除の液体作り
苗植えの為に体力消耗
足腰の痛みにコンドロイチン
疲れたの次に溜め息
エプロンの汚れ
洗濯機は節水の為積載量オーバー
お天気は不機嫌
気候は気まぐれ
ラジオは垂れ流し
夕日が沈むまでに郵便屋
いただきますのあとの御馳走様
空っぽの炊飯器
豆電球はだいたい、だいだい色
おやすみなさい
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短歌        5首

短歌       5首
悲しみを胸に秘めたわびづまい一人より二人涙より酒
安穏と皆に恵まれ文字を書く絶望が足りぬ孤独が足りぬ
高くより深くありたいという君の意味に刺された昨日の嵐
憎しみに曇る空に蓮の花開いた言葉は虚構に満ちて
陰影と策謀きたす秋の靄渦巻く中に人の顔顔
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孤独へのステップ

孤独へのステップ
           1 
大吉の御神籤を引いた。その裏側で、死に神が笑う。
そういえば、血が止まらない日が、千年続いた。
孤独はそんな裂け目から、始まってゆく。
           2 
孤独の境目を繕う針と糸を、探している。
糸は針について行くと決めているのに、
針を動かしていたのは、壊れたミシンだった。
針は折れて、糸は鮮血に染まり ぷつり と、切れて
詩合わせができない。
           3 
形の無い愛に言葉やセリフをつけて、舞台で踊らされる。
プリマドンナが、立っていると見えていたが、皆には、
舌を出して笑ったピエロが、主人公だと分かっていた。
愛は見えない形で、嘘をつく。
           4  
虚構から護られたシナリオの上で、息継ぎができない。
張り巡らされた有刺鉄線がくい込んでゆく。
もがけば、もがくほど、ぼとり、ぼとり、と落ちる肉片に、
舞台は拍手の渦で、幕を閉じる。
時代が求めているのは、いつも惨劇だ。
           5
私の胸の中を、無数の蟻たちが、出たり入ったりして、
左心室の肉壁を囓り始めた。
ポッカリ と、開いた穴から秋が顔を出す。
いや、空きが吹き抜けてゆく。

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西日に問われて

西日に問われて
君は最近誰かの為に
泣いたことがあるか?
いいえ
可愛いのは自分
可哀想な自分
苦しいのも自分
君は人の話を
最後まできけるか?
いいえ
正しいのは自分
話を切る自分
そして縁を切るのも自分
君!
誰も寂しいのだよ
君はなんて
身勝手な
愛情乞食なんだろうね
でも…
でも
この街で
あなたが育った
泣いて生きた
この街に来て
やっと
私も本気で泣けたんです
理由はわからないし
共通点なんて
それだけですが
愛に近いと
想いませんか
真っ赤な夕焼け空
西日の当たる廃屋で
シャッターを切る
あなたの悲しみを
私は今日の
カメラに焼き増しする
ホテルで目から
西日が零れて
孤独が優しさになって
面影が枕を濡らした
遠くで
電車の音が聞こえる
あぁ
お父さん
この街にもいたんですね
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