沈まぬ夕日

沈まぬ夕日
沈まぬ夕日
燃えるような
夏の黄昏の向こう側の
グラデーションに
死んで逝く
ぼくらの夏
愛しき人よ
あなたと一緒に見た
あの夏の花火が
今 空に灼かれているよ
「もう
あなたに
会うことはないわ」
夕暮れに
俯いた
あなたの顔
あなたの声
ぼくの西日は
沈まないまま
記憶を焦がして
夜になれない…

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無題

無題
【無題】
淫猥な/記号の羅列/エッフェル塔に/ぶら下がってる/文字をかき集めて/明日/路地裏で死ぬ/猫の目に/光を宿すのが/詩人の仕事である/無鉄砲な/ドン・キホーテを/笑う/資格がないのは/皆が/彼に/憧れるからだ/よく聞け/よい子の/ロクデナシ共よ/夢から覚めないまま夢を見ながら/明日は/語れまい/
【素描】
素描/あなたの輪郭を/産湯で溶かす/夢をみる/裸のママ/泣いている/二人の子ども/独りは/よい子の息切れ/で発狂/裸のママから/殺された/もう独りの私/いつもの/日曜日/昼間の/素描/
【悲鳴】
平凡な/戯れ言メールに/滅多差しにされた/午後の私の/処女膜の裂け目から/溢れ出る/憎悪を/飼い慣らす手段を/覚えるために/アイスピックで/コチコチと/氷を/潰す/崩れ落ちる山の/悲鳴を聞きたい/
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(妊娠は女が犯した最大の過ちであり
     その股から黙った子が悲鳴を上げるだろう・・)
そこは遠い星の国だった
夜になるとピンクのミニスカートを履いた宇宙人がいて
火星でヒラヒラと手招きして
地球飛行士の重い鎧を手慣れた技で脱がしてゆくのだ
銀色の鉛玉だけになった宇宙飛行士を挟み込むと
宇宙人は鉛玉を逆手にとってしなやかに絡みつき
やがて、ピン!と脚を張ると
飛行士たちは死んでゆくのだ
 という 魔法使いの言葉を信じたのは満月の夜だった
私は自分の中にある新月に手を伸ばし 初めて空に指を入れた
その星の国で出会った人を想像しながら 目を閉じてゆく
地球の大草原に放牧されたい囲われた馬の涙と
甘いお菓子を訪ねて歩く秘密の霊感少女と
廃屋の死骸ににシャッターを切るトーンの外れたジャズシンガー
饒舌の悪魔と契約を交わし
呪われた美に洗脳された王子の歌声を聞く
私はそのひとりひとりに種をもらった
花は一夜で狂い咲き ぬるま湯に浸かっていた
花びらは、朝に夕焼けのように燃えて広がり白い布を
灼いた痕だった
ショーツからはみ出した四つの滴そのままに
ホテルに鍵をかける
西日が血痕をいっそう焦がす頃 私の夏は過ぎようとしていた
私は産み直したのだ
あの日 私を犯した父 その人を
意味もなく 置き去りにしたくて

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ラプンテッエルの青い薔薇

ラプンッエルの青い薔薇
(長い長い城壁に閉じ込められた時間
         私は青い薔薇を花言葉ごと身ごもりました)
塔から長い髪を垂らしたラプンツェル
王子様は安易に言う
「君を救い出すためにこの城壁を登り切ると誓うよ。」
髪の長いラプンツェル
「王子様、嬉しいわ、早くこの錆びたお城から私を逃してください。」
プラチナ銀の髪をダラリと垂らしして
いつか いつかにと夢見た脱走物語
王子の重さに 頭皮から血が滲み出てプラチナの髪は
インクが滴り落ちるように じわりじわりと赤に染まる
血塗られた髪を満月が艶やかに照らし出し
恋の痛みを 深い森に隠しながら
ラプンツェルは 血を流す
白く長い指が籠城に届いたとき
彼女は片手ごと髪と一緒に王子を斧で切り落とす
「王子様・・・遅すぎました。」
「王子様、貴方はそんなにも逞しくしなやかな腕を持ち
なぜ「今」 告白されるのですか。
私は待ちました。貴方の一分が千年になるほど恋い焦がれ
私は狂った花を身籠もりました。
その間、魔女の嫉妬に犯し続けられ 腹の子を裂かれました
彼女に赦しを請い 罰を受けるように愛されました。」
「そして お腹に ブルーローズを宿したのです。」
貴方の声
    貴方の眼差し
          貴方の美貌
               貴方の欲望
                   貴方の・・・・
貴方の全てを見透かす私の腹部の青い薔薇が
「遅すぎた裏切り者は殺せ!」
と言って咲くのです。
王子様、なぜ「今」だっのですか?
魔女は優しく何度も私を殺めた
魔女は淋しさの刃で私の胸を切り開いた
魔女はその度に本気で私の血を抉り啜った
魔女は魔法すらかけなくとも私自身を魔法にかけた
その壮絶な孤独に青い薔薇が千年かけて宿りました
空っぽの花言葉そのままに・・・。
王子様
私は貴方の生涯よりも
重い花を身籠もってしまったのです・・・。
私をいつか捨てる貴方、裏切り者の貴方には
すぐに伸びて軽く切り捨てられる髪がお似合いです
赤い糸にくるまったまるで繭のようになった貴方は
そのままお逝きなさい。
千年経ったら会いましょう
羽化した蝶になった貴方がこの窓辺へ遊びに来るなら
私の咲かせた青薔薇の蜜の甘さを確かめに・・・。
ここまでおいでなさいませ。
その時髪は何センチ伸びているのかしら・・・。
そして青い薔薇は、赤く咲いているのかしら・・・(笑)
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喪失

喪失
真夜中の蛍光灯が爛々と輝く頃/あなたはマンホールから地下道を通って/笑顔を貼り付ける/まるで今日一日を全て伝えたい新聞と広告を抱えて/上半身を伸ばし下半身は溝水につかったままで/昼を訪ね歩く
その悲しみを溶かしたように/空が涙を流す/痛みを堪えた靴底が/鈍色の音を発する度/愛に濡れた大地が/枯渇したあなたの瞳を/優しく覆うだろう
黒い喪服を着た少女が/白い錠剤を手渡して/あなたにこういうのだ/あなたの目には一雫の希望のカタチもない。ただあるのは肉体に時間があるだけだ。/と
あなたは/ばらまかれた/一粒の絶望に/征服され/どんどん/白くなり/透明になり/やがて/見えなくなる

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砂時計

砂時計
さらさらと
上から下へ
流れる調べに
砂浜から
誰かの息遣いが
聞こえる
たった五分の砂から
白くこぼれていくものたち
遥かな国の物語
ではなく
隣の老人の寿命や
誰かが海から流して
砂浜へ流れ着いた
人骨のようでもあり
この棺のなかで
上から下へ落ちては
呼吸するものたちを
ひっくり返して
甦り死んでは
生まれまた老いて逝く
旅立って逝った人々が
唯一
五分間
さらさらと
砂漠を旅してる
果てしない
海の藻屑となった
タイタニック号の調べ?
いいえ
一ページ完結の
隣のおばあちゃんの
悲鳴の分だけ
砂が零れた

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積み木崩し

積み木崩し
さようならと
手を振るときは片手で別れ
深め合う時は両手を添えて
握手
固くつなぎ合わせた
それぞれの手を
重ね合わせて
塔ができたのに
さようならとひとりが
片手を振れば
積み上げられた
みんなのジェンガ
一ピース欠けて
音をたてて崩れ果てた
余りにも高く積み上げて
重ねていたのに
「さよなら」
の音が轟然と残響して
今までの砦は
片手で振られて
私は重さに気が触れた
「さようなら」
あぁ、そう言って
一抜けたのは
誰だっけ
重ね合わせられた手の数々を
十露盤ばかりで
はじいては
計算高く一引いたのは
ずる賢いあの人たち
ではなく
もしかしたら

「さようなら」と
手も振らず
雨に降られた夜遅く
「サヨナラ」と
ぽたぽた
デジタルな文字で
黒く塗りつぶした
気が触れたのは
どのピース
崩れ落ちた積み木は
だれが拾い上げるの
知らない
知らない
知りたくない
真っ白な文字は
もうかけないし
ただ
ひび割れた積み木が
転がっているのを

拾えないまま
ずっと見つめている
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私の神様

私の神様

生ぬるい手ぬるい愛ならいらないわ 目をくりぬいてあなたに忠誠
淋しさに淡き色を塗り重ね あなたの全てを汚してみたい
眠れないあなたの為に子守歌 辛くはないわと涙を流し
信じれば信じるほどに血を流す あなたが好きな私のはらわた
上の句で下の句を裏切るよう 教えてくれた私の神様
笑いあい愛していると囁けば 毒薬入りのワインで乾杯
いつの日かあなたの横で泣いたなら 其処で光るジャックナイフ
この恋が実ることがないように あなたを殺す私を殺す
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熱帯夜

熱帯夜
身動きも取れぬ程に慕いしは伝える事すら叶わぬ恋人
汗ばんだ額にどうか接吻を髪をなでて指で溶かして
呼吸すら赦されなくば我が首に噛みつきたまえ戒めたまえ
我が身をば生かし滅ぼす君の愛熱にうなされ焦がれ焦がれて
甘き声幾度幾度も血の中で廻る罠と優しき目眩

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月美の涙

月美の涙
月美の涙
海底に眠る君の身体から透明な茎が
月に向かって伸びてゆくよ
月美
悲しいけれど
お前はそれを見ずに
短い夏を逝く
お前が咲かせた花は
月下美人
儚さに背を向けて
薄明かりの部屋で
小さく悲鳴をあげた花
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