小詩  二編

小詩  二編
【眠り】
記憶は青に染まり
充血した日常に
瞼は沈む
ゆらゆらと
独りきりで船出する
その出航先に
宛はない
霧の中で
私はわたしの名を
失った
空から銀糸が
垂れ下がる頃
私はわたしの名前を喚ばれた
「カンダタよ、這い上がれよ」

【おやすみなさい】
遠い所へいくんですね
いいえ
夜には会えますね
遠い所へいってらっしゃい
いいえ
そこがあなたの帰る場所
遠い所を彷徨いなさい
あなたが
望むあなたになるまで
おやすみなさい
記憶の街で
会いましょう

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旅人

旅人
夕暮れ時を切り取った
一枚の写真から
行き交う人々の群れ
一日の終焉の延長先で
約束された夜が
静かに窓辺へ降りてくる
コンクリートに入った
マッチ箱の灯火を
こすっては 灯し
こすっては 灯し
箱の中から一本ずつの人々が
平等に差し出された腕(かいな)に抱かれ
ゆりかごの中で旅をする
ゆれる眠りの森の奥で
その腕の柔らかい導きに
今日の疑問符を投げかけながら
空白のノートに落書きをする
明日までの冒険
おやすみなさい
空の巨人
灯火が静かにひとつづつ消えてゆく
まるでそれが
当たり前の儀式であるかのように

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青春

青春
壊れ物
取り扱い注意。
時に黒く
時に青く
時に激しく
時に弱く
私は楽譜に脅えるモーツァルトであり
私は無礼な孫悟空であった
私は食に群がるハイエナであり
私は独りさ迷う野良猫であった
そして 絶えず
夢と街の区切りを
転がり続ける病葉であった
黒い雲間から
雨が何度も窓を叩き
優しい風が
ドアを開けようとしても
頑なに拒み続けた
ポキリ、と
風雨に耐えきれず
窓辺の梢が折れる音を聞く頃
いつの間にか
考えるだけの葦になっていた私は
河辺に青白く灯る
ほたるのひかりに
今年も 堪えきれず
涙を流す
忘れ物
取り扱い注意。

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ミネストローネ

ミネストローネ
石をも穿つ/水滴に溺れながら/此処までやってきたけれど/泥濘に足をとられ/愛するほどに/あなたは遠く/私の思想は/檻の中でもがきつづけ/感情は腐食し/孤独の苦さが/雨音と踊る/
時は錆び付いて/悲しみだけが/自分を愛し始める/終わらない過去たちが/叫び声をあげて/記憶の扉を叩き続ける/こじ開けてみても/あなはもう/私の運命にはいない人/
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空蝉の唐衣脱ぎて残り香に託す想いも君は知らずや
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逢瀬時喘ぐ二匹ぞ蝉時雨
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贖罪が響いて

贖罪が響いて
髪を切り贖罪映す水鏡己に報いを神に刃(やいば)を
欲望の渦巻く中にあろうとも欺けぬ罪知る人ぞ君

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雷鳴

雷鳴

あの夜の嵐を
私は忘れる事ができない
神鳴りが
あなたの奥深くで
ひび割れた音をきく
私の身体(そら)を
真空の光で裂いた
あの夜から
春蘭に目眩を起こし
剥き出しになった
雷獣が
まだ瞼の奥に住みついて
時々雄叫びをあげる
震える身体を
抱いて独りで眠る
好きです
なんて程遠いほどに
あなたが恋しい
夜も昼も
私を征服して
なにも言えないほどに
抱いていて
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永遠の少年

永遠の少年

あなたを失ったら
自殺するといった
永遠の少年
僕には障害があるけど
あなたを全力で愛する
と泣きながら
叫んだ
いつかの少年
もう おじさんレベルなのに
首の曲がった女なんかの
どこがいいの
見上げれば
嵐のあとには
真っ赤な夕焼け
散歩途中で躓いた
老犬
そういえば
お前も子犬の頃から
私に
捨てられないと
信じて余命を生きる
永遠の少年だったね
今も
あの澄んだ目で
私を見つめながら
泣いているのか
夕日を雲が隠して
今は
愛することの
意味すら
わからないままに
永遠の
向こう側にいった
いつかの少年
老犬が
じっと私を
見つめている

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生きる

生きる

何もかもが嫌になってさっき睡眠薬を多量に飲んだ
私は健常者ではない。一生手立てのないある疾患を持っていた。
父はいない。母は仕事。娘が死のうとするその瞬間さえも仕事。
毎日息をするのも辛い。無理して笑ってみても変な顔
人は病人の気持ちなんて分からない。
頑張れないときに頑張れと、励ます友人の心強さが恨めしかった。
私は目前の池に目を向ける。
ゆっくり入水自殺する。一挙手一投足が自殺。
私は狂っている。私はいらない子。私は誰からも愛されない。
沈んでゆく私の手のひらに猫じゃらし。
最期の草。もう晩秋。
私と同じように朽ちてゆくのか。
ねえ、これが最期。最期だけ良いことをしよう。
引っ張らないでいてあげる。
そうしたら、お前はその体に撓わな種をつけ
来年の春にはお前の分身を生み、春の陽気に微睡み
夏の陽差しを乗り越え、また来年の今頃には
一生懸命に生きて新しい自分の分身を生み出す。
それが、自然の理。
あぁ、今、わかった。
私に足りなかったものはそうゆうものなのだ .
誰かに褒めてもらおうとか
誰かに愛されたいとか
という孤独な虚栄心
ただそこにあるだけで
必要とされる生きているものの温かさ。
そういうものに生まれ変われるなら
私は心の底から「生きたい」と願うのだ。

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