オフィーリア

オフィーリア
オフィーリア

オフィーリアよ
お前のその祈りは
誰のためなのか
恋するが故に
狂気を纏い
死して尚
その紅き唇から
なにを語るのか
オフィーリアよ
渦巻く策謀の罠に
堕ちた
儚き夢を渡る少女よ
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常春

常春
身体じゅうの痣から
透明な茎がでて
病室で溜め息を吐く度
花が咲く
プランタンの菫が
赤や紫や黄色になって
身体じゅうに咲く
痛くはない
辛くはない
ただ頭に
花が咲いたら
春がきたとおもいなさい
此方へは
還ってこれない
拘束ベッドの
箱庭で
枯れない菫が
植えられてゆく
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ある恋いの形見に

ある恋の形見に
戻れない蜜月を
振り返れば
其処には欠けた三日月
鋭い鎌で胸を刺し続けた僕らの
いつかの夜空の爪痕
今更の今日が
明日を隠すんだ
孤独が約束に
鍵をかけるんだ
満ち足りない日常に
くるまれた新聞紙から
腐った桃から滴り落ちた
水蜜桃の苦さを
僕は知ってるから
違う果実を探しながら
過去を千切りながら歩く
熟れ落ちた林檎を
かじってみても
僕らには
エデンは遠く
君またも遠い
僕は果てしない
夢を見るために
瞼を閉じた
琥珀色の瞳に
君を染まらせないように
そんな色のブランデーの海に
君を酔わせないために
孤独が約束通り過ぎた夜
狡い僕から
風に揺れてる
雛罌粟のような君へ

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ただ君に・・・。

ただ君に・・・。
秒針に胸を刺された夜の華眠れぬ夜に枕を濡らして
いじらしい棘ほど甘い顔はない花のように微笑む嘘つき
秒針の音聞け叩け我が胸の鳴りやまぬ夢の扉を開け
淋しさに唄があるとするならば薄情者が吹くよ口笛
俺の詩は普遍的だという君の普遍性ってなんのメタファー
隠してたでもバレバレの嘘をつく男の言い訳 女の秘密
新しい秘密と陰口増える度 人と人とが夜手を繋ぐ
眠れない夜を数えてモノロクローブー触れる針に揺すれ揺すられ
ただ君に優しくしたいだけなのにコインが裏切る本音の裏側

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黒い箱

黒い箱
黒い箱
長持ちする
飾られた言葉が
優しい配色で
贈られて
私を癒やしては
私の代わりに咲いて
枯れて消えた
せめて
絵にかけば
消えないだろうと
毎日描いて
描き終わった頃
花も枯れて
贈り主も消えた
まるで
始めから予知されたように
黒い箱に
収められていたっけ
私は
水彩画の思い出を引き裂いて
柩に涙を刻む
ラナンキュウスの花束を
勿忘草に替えて
黒い箱に閉じ込めた
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小詩    二編

小詩  二編
【唇】
赤薔薇のように
開いて
赤薔薇のように
咲いて
赤薔薇のように
色づけた
胸に薔薇のような
棘が
刺さったままで

【風の中】
風の中を
旅人は行く
風の音を
纏いながら
淋しそうなフルート
悲壮なヴァイオリン
二短調のピアノ
風の中を旅人は行く
旅は胸に響く
渦巻くうねりの中
すべてのハーモニーを
上手に奏ながら
旅は
続く

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降り積もる雪のように

【降り積もる雪のように】
あなたの望む
あなたにおなりなさい
例えば雪のように
柔らかく白く
降り積もりなさい
やがて踏みにじられ
汚されて逝く
その傷や痛みを
涙や嘘で繕うのです
そうして白い瘡蓋で
覆うのです
人はまるで
降り続ける白い粉雪
自分を掘り下げるように
自分を重ねて行く
   ※抒情文芸134号入選作品 清水 哲雄  選

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斜景

斜景
車椅子は後ろ向きに並び
待合室から掲示板を覗くギョロ目たち
黒鞄の中身は駆け引きと
すれ違う人の胸にはピアスホール
私は泳ぐように歩む
傾いた首で傾いた顔色を伺いながら
俯く病巣の中に
見えない手すりを求めながら
(ジストニアによるケイセイシャケイ。ストレスによるものですね。二年で完治する極稀な人もいますがあなたの場合はおそらく…)
容易く吐露する主治医のサラリーな一声が
耳に残響して早三年
私の見る 人も景色も
斜めに映ったまま陰を沈める
車椅子同士の笑い声に
待合室のいらだち
黒い革靴たちは早歩き
すれ違う人の
異質な私への疑問符は
白いマスクでシャットアウト
私の横目から溢れ出る
情緒不安定な雫たち
斜めに落ちて
いつも 誰かに踏みつけられていく
窓際で
傾いた頬にほおづえついて
睨んだ夕陽さえ
斜めに暮れてゆく

 詩と思想六月号入選作品

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五月

五月
失った若草色の
色鉛筆を探して
新緑の森を過ぎ去る
透明な風
慌ただしい太陽が
恥ずかしがりながら
月に隠れた一瞬
瞬きもせずに
光った空の詩
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涙の後始末

涙の後始末
涙の後始末
悔しいことも
理不尽な扱いも
みんな溜め込んで
吐き出すことが出来ない
泣いていいよ
話すことは
放すことだからね
でも
鋼鉄の口からは
無言の悲鳴が
響くだけ
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