蛍光灯

蛍光灯
明るさ四百ワット
お喋り好きな私
でもね
真後ろに
できる長い陰は
明るすぎて
見えないの
明るい私
笑顔の私
そこには
しわくちゃな
泣き顔や皺も
ひかりに消されて
つるんと剥けては
私ごと
蒸発してゆく
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捨てたはずなのに・・・

捨てたはずなのに
ひとことに昔の恋が騒ぎ出すまだ好きなんだまだ好きなんだ
ねむらないよるを偲ばせたあなたのよこに知り合いの彼
適当にあしらう筈があしらわれ宙ぶらりんに逆さに吊られ
水槽に捨てたはずの沈殿物が透明に輝く彼女と彼氏
思い出が美化されてゆく二十五時夜について語らう二人
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櫻狂(ハナクルヒ}

櫻狂(ハナクルヒ)
櫻(ハナ)に喚ばれたんだ、と少年(アナタ)は云った
(一)
春は宵櫻(バナ)
漆黒の薄衣纏し少年は
夜々に微熱を身に帯びて
春の目覚めを恐れては
右手に短刀 黒袈裟羽織り
まほろばの櫻(ハナ)に春を見る
櫻(ハナ)よ 華よ 心あらば
我が身の卑しき早春の
性(サガ)の時を御身に封じ給え
されど我が身も男子(オノコ)故
今 一度(ひとたび)の憐憫を
(二)
否 我は老い櫻(バナ)
もはや華の季節(とき)は過ぎました
妖しき言の葉薄紅の紅に宿して花弁舞う
春を忘却に沈めた櫻に何のご用意がございましょう
吹く風に抗えば命を冥府に墜ちるでしょう
黄泉路 開かぬうちにお帰りを
人が櫻(ハナ)に狂うなど
ましてや櫻(ハナ)が人に恋うなどと
(三)
春は夜
宵に酔い
月が奏でる魂の旋律
共鳴する二つの影は赤裸々に
深みに墜ちては昇りつめて濡れそぼる
幽妙な舟底は雫に溢れ
注がれる熱に鼓動は嘶き
時空(トキ)を超えて滑り出す
狂い櫻(バナ)と雄の四魂
絡み合い墜ちては突き上げ
奪い奪われ紅櫻
死と再生を繰り返し
櫻(ハナ)は満月
月に咲く
(四)
女の潮は男子(オノコ)の精を巧みに操り
尚 朱く 紅く天に向かう
男子は聖域を犯したその手で
小刀 ひとつ
自らの心の臓を櫻(ハナ)に捧げて 来世の春を誓う
【櫻狂(ハナグルヒ)
   恋し女(ひと)は華と為り
     来世の縁(えにし)を此処に結ばん】
黄泉平坂
禍事の
良しも悪しも
人知れずして
恋と呼ぼうか妖しと云うか
只、 櫻(ハナ)に喚ばれたんだと、少年(アナタ)は云った・・・
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悲しみ

悲しみ
宇宙が瞬きしている間に
地球から一滴の
海が溢れた
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不在の国

不在の国
悲しみに飽きてしまえば面倒な君ごと捨てる愛だの恋だの
どこまでも翻弄された歳月に太陽と月は もう巡らない
幸せな記憶の底に君不在 乾いた砂漠 そこが君の場
困らない 君が消えても変わっても 僕の世界は 無限に広がる

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蛇の恋

蛇の恋
男よ
あなたの肋骨から
私を造り直してください
神より近く
愛より遠い
あなたの喉仏から
二人の過ちの声が
楽園の空を切り裂く
ひとかじりの
林檎の滴から
狡猾な女が垂れ流す
淫猥な蜜
溶ける骨
絡み合う舌
蛇の恋

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煙草と栞  3

煙草と栞 3
わたし今 君に恋文書いてるの 好きと嫌いの皮肉をまぜて
辛辣な言葉もなくて私達うまくいってる うまくやってる
誰とでも指切りげんまん出来る手を憎んで泣いた日々が可愛い
まだ好きだ なんてメールが来る毎に 読んで楽しむ私は不在
難解な恋愛小詩が届く度 あなたが潜む私のケイタイ
「お前のことムカつく時もあるけれど」続きを言えない君が大好き
恋心メール受信する夜は見せてはいけない涙を送信
アイシテル電波が届く二十四時あなたの肌にアクセスしたい
一夜きり一夜きりっていうけれど あなたの夜は千夜一夜
恋してはならぬ煙草の似合う人 私は栞みたいな薄さ

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煙草と栞  2

煙草と栞 2
本を繰るくちづけシーンに栞ごとあなたを閉じる瞼が熱い
イニシャルを同じリングに刻んでは独りで嵌める親指小指
ディオールのハーレンハイトの香りから思い出だけがくゆりと煙る
悪戯にはしゃいだ日々を引き出して写真の人はさようならの君
好きですと真っ正面から言えたなら中毒になるわ煙草と君に
指が好き長い煙草を挟むよう私に触れた遠い指先
愛読者あなたが好む恋愛詩そこに私の居場所はあるの
秘蔵書に挟んだ栞押し花に色ありますか薫っていますか
あなたの目いつも虚空を見つめてるそこから私はみえていますか
秋晴れに紅葉が紅くなる前に栞に挟んだ新緑の恋

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煙草と栞 1

煙草と栞  1
欲しい人煙草好きの詩人さん愛読書にはいつも栞が
教会の鐘が響くの草原で私の隣に空白の人
煙草吸う指に光るプラチナが私の胸を紅く切り裂く
お揃いのペアリングなど持ってない近くて遠い憧れの人
運命が絡まっていた 赤い糸宇宙の誰かに切断された
愛してる昨日の言葉は今日の嘘 君のすべてが今日でおしまい
街角で見かけた君の隣には背丈も似合う小さな女性
そんな顔して笑うんだ微笑む君はよそ行きの顔
好きなんだ 過ぎた季節にメイプルが色付き始める秋は嫌いよ
あなたの名千回呼んでも振り向かない千一回めがもう呼べなくて
君の指いつも煙草を挟んでる私のこともどこかに挟んで

 

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一月

一月
一月
Photo. R

冬から零れた
ちいさな春が
笑いながら
福寿草にひかりを
宿す
おめでとう
明けない夜はないのだと
囁くように
告げながら
二月に夜明け前を
手渡して
黎明の薫りを
開け放つ
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