詩集がみつからない

詩集が見つからない
君にあげる詩集が見つからない
私の陳腐な言葉じゃ間に合わない
下手なメタファじゃ
真心が独りよがりの余所の国
君の心の隙間に
じわじわと染み込むような
君の鋳型にピッタリ当てはまるような
思わず笑ってくれるような
忽ち愛(かな)しく泣きだすような
文字を探す 探す 探す 探す
何年もかけた秘蔵書に 収集した本棚は
君に想いを告げられない

カテゴリー: 02_詩 | コメントする

戸惑い

戸惑い
戸惑い
蒼白い氷雨針
冷めた囲い人の焔
ながされ たゆたう
小さな情熱
唇のような赤などいらないから
小さな棘をひとつだけください
あの人の胸に
小さく刺さるだけの
揺らめきを
カテゴリー: 04_携帯写真+詩 | コメントする

恋愛ごっこ

恋愛ごっこ
さっぱりと切った髪を弄っては軽くなった過去にサヨナラ
手折られる花一輪の哀しみを抱いてふるえる冬の陽光
ねぇ夏美 恋って冬至を越えれるの 試して傷を幾つ数えた
初霜に蝕まれゆく花びらのようなあなたの心がみたい
この指輪あなたが噛んだ歯形です今は見知らぬ誰かの傷痕
固いなら約束なんていらないのふるえる指が欲しがるリング
哀しみを重ね塗りする悪戯を教えて重ねた罪木を崩し
囲まれた四角い部屋はいつも夜朝を遮る白い錠剤
寒空に心ひとつ置き去りに透明に濁る君への想い
愛してはいけない人と知りながら背伸びした分キスして欲しい
目を閉じて独りの夜を閉じこめる瞼は火照る君を想えば
カテゴリー: 06_短歌 | コメントする

ハンマー

ハンマー
おいらの家は解体屋だから、難しいことはよくわからねえ。
 今日も親方に呼ばれて仕事をする。
 扉を叩いて壊す。
 瓦礫をトラックに積む。
 そうしているうちに、隣近所の女の子が一人、おいらに向かって喋りかけた。
「おじさん。おじさんは、どれだけの思い出を壊してきたの?その家にはある家族が住んでいて、犬を飼っていたよ。おばさんは陽気で近所の人気者、おじさんは大工で家を立てる仕事をしてたよ。その夫婦には子供がいて、子供はお嫁さんになって、また子供を産んだよ。本当に幸せな家庭だったけど、いろいろあって、この家を手放さなきゃいけなくなったの。この家のおじさんは出て行く前日、昔の思い出を語っていったよ。前の池でジャコ取りをした事、大工として腕が認められたこと、一人前になっておばさんをお嫁さんにもらって、この家を建てたこと、子供を産んで親になることの喜び、帰ってくる家の灯りのありがたさ。近所の人の温かさ、孫に帰る故郷のない事実の辛さ。自分の責任のなさ、それらをみんな言ったら、ただ黙って泣いていたよ。それがここの主人の最後の姿だった・・・。」
「・・・・・・。」
「おじさん。おじさんに家庭の事情とか、現実の厳しさなんていいたいんじゃないんだ。
 ただ、ただね。家って言うのは、居場所なんだよ。おじさんの持つハンマーは、それを知って使っているの?」
「・・・・・。」
「ごめん。責めてる訳じゃなくって、ただ、見晴らしが良くなりすぎて、私、とっても悲しかったの。
そして、知ってて欲しかったんだ。同じハンマーを持つ人間が壊すことも、創り出せることもできるという事を・・・ちゃんと、・・・知ってて欲しかったんだ。」
「・・・・・。」
「ねえ、ここにもいつか知らない家族が越してくるんだよね。・・・・新しい家が…建つ日がくるんでしょうね・・・。」
 おいらには難しいことはわからねえ。
 今日も親方に言われたように仕事をする。
 ただ違うのは、右手のハンマーがいつもより少し重いこと。
    
※(詩と思想新人賞、第一次選考通過作品)

カテゴリー: 02_詩 | コメントする

執着

執着
夜が孤独を運び
激情が暗闇を
照らし出す
あなたの匂いの
立ち込める一切の
物たちが騒ぎだすと
血は蝋燭の炎のように
朱く蒼く燃え盛る
焼けない写真
褪せない傷痕
降り積もる優しさ
それらが真綿で
首を絞めるから
息ぐるしくて
胸をかきむしる
体に流れる水脈が
目から蒸発を始め
口から濾過された
水道水が零れ落ちてゆく
蝕まれて逝く躰に
ガソリンをまいて
渦巻き手を繋ぐ炎に
身を任せ
今 朽ちたはずの躰は
火柱となって
振り払えない
火の粉を生み出す
(困らせたい)
(奪い去りたい)
(閉じ込めたい)
燃え尽きることを
知らない炎は
成仏できない
狂女の亡霊にも似て
私と同じ顔をしている
カテゴリー: 02_詩 | コメントする

孤独

孤独
宇宙が完全に時を止めたなら
人は空に憧れたりはしない
毎日が晴天ならば
一日で固形化した
油絵の具のような空に
群青色を塗りたくって
「よる」を作ってみたり
そこに青白い円をおいて
「つき」と呼んでみたり
そんな夢もみないだろう
重ね塗りするごとに
深まってゆく
キャンバスの果てしなさは
完成することのない
肥大する宇宙
誰かが言っていたっけ
人は少し孤独なほうが
宇宙に近づけるって
私は
宇宙というキャンバスに
神様がポツリと呟いて
落としていった
小さな赤い太陽
孤独は宇宙に
赤く咲く炎
私を燃やし続けて
尚 熱く
輝く
カテゴリー: 02_詩 | コメントする


残されたあと
君を想う
安いドイツワイン
白と赤の交わる夜
残されたあと
君を慕う
赤いテディキュアが
張り付いたまま
剥がれておちない
指のマニュキアは
もう塗り直せない
海に投げ捨ててきた
白い観覧車は
潮風に錆び付いたまま
動かなくなった
君の瞳から
一粒の海
ハーバーランドで買った
思い出のリング
別離の記念にと
泣き出しそうな
碧い君
残された痕
お互いに貪り
オブラートの愛憎劇から
放り投げられた
ペアリング
最後のさよなら
叶わない夢
記憶に沈む
君との轍

カテゴリー: 02_詩 | コメントする

積乱雲

積乱雲
どこかに積もった溜息が
舞い上がって塵も積もれば山となる
君の頭に積乱雲
のんびりと羽をのばしているけれど
今か今かと
稲妻を腹に鱈腹蓄えながら
ふわりふわりと
薄笑い

カテゴリー: 02_詩 | コメントする

チロルチョコ

チロルチョコ
チロルチョコ

淋しいと言う前に
あ〜ん あ〜ん
大きくあけた口に
チロルチョコ
小さな甘さはね
淋しくならない
魔法の口封じ
カテゴリー: 04_携帯写真+詩 | コメントする

紅い紐

紅い紐

「お前が必要なんだ。」
「でも、俺は妻を愛しているし、故郷を離れたくはない。」
「会社に縛られて、シャツがシワシワになって、
 ネクタイが曲がってても、笑って営業に…」
そこまで言って彼は急に
携帯の声を押し殺した
一人寝の女の部屋で
夜が震えた
私は彼を縛る総てのものから
解放して
色を着けてあげたかった
 (お前が必要なんだ)
守れない告白
色褪せないうちに
私は薬指に
ガーネットの指輪をつけて
空中で手首を
ひらり ひらり
と揺らす
まるで心中する事を
手招きするように

カテゴリー: 02_詩 | コメントする