散華の夏

散華の夏
散華の夏
零れた白い夏が
月に還る
晩夏の名を呼びながら
新たな季節に
淫らに燃えて
白肌は紗の薫りを
遺して
西国浄土の夢を
珠にして
夜を数える
泥濘から残されたのは
夏の名残りの
裸の芯
蓮(はちす)
十六方位に
光を宿していながらも
花弁は
珠玉の涙を浮かべた
薄幸の女
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煙草

煙草
沈黙ケースのホテルから
四角四面な私を取り出すと
いとも軽く持ち上げて
唾液のベッドに放り込む
真っ白な私に真っ赤な言葉で火を付けて
頑なな私の芯を解ようにくちづける
あなたが私の躰を吸う度に
痣になった蛍火が
儚い命を闇に溶かして消えて逝く
ギリギリまで私を奪うくちづけは激しく
火照る私の体温は発火し高熱を帯び
病に犯され寿命を削り取る
あなたの憎らしい執拗な戯れに
私はヤニついた毒を吐く
けれど
容赦なく私を一本一本と
征服してゆくあなたの指先が
私を狂わせ胸の炎を踊らせ
私を蝕んで愉しんでいる
あなたの咽せた咳 ひとつ
これが私の精一杯の抗い
蒸気した私の涙が紫煙となって
くゆり くゆり と立ち上る頃
あなたに愛された記憶は
夜にはぐれて薄れてゆく
思い出を全て空にして
私を簡単に捨てるあなたに
報いを授けましょう
あなたの肺は真っ黒い点描画
誰も入る隙間もない
私だけの部屋になる
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言の葉を並べて祈る最愛の人は消えゆく音楽にも似て
とめどなく 溢れる想いメロディーに歌えど歌えど君には届かず
夏の日に 飛んだ蛍の灯火に 君はみたかい あの灯(ひ)に愛を
来世では 添い遂げようの 約束も 来世があってならの約束
人知れず 君の名を書く 君を呼ぶ 姿形も白紙のノート
また会おう またっていつなの どこでなの 黄泉路は私独りで逝くわ
最近の私は悲劇で喜劇なの 自分の余命玉響の音
詩はかかない 詩は書けないの だから今 死を書いてるの 死を書いてるの
招き猫 招いてください あの夜を ブルーノッテの薫るあの女(ひと)
さよならと言ったあなたの始発駅はじめましてが冷たい終着
真夜中にあなたをさらった 犯人は 哀しく泣いたカムパネルラ
嘘を塗り 罪を纏い 泥濘に 足掻きながらも 僕には君だけ
世界から弾かれたのは鎮魂歌 モーツァルトは いまだ眠らず

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セクサロイド

セクサロイド
セクサロイド
浴室に幽閉された
モノクロの私は
未完成でありながら
あなたに飼われるのを
待っている
誘うように哀願する
【色が…欲しい】
乾いた喉を裂いて
溢れ出したコトバ
堪え切れぬ涙を
身体中に浴び
まだ
独り
濡れたままで…

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小詩  四編    4

小詩四編   4
【すれ違い】
そろそろ来ると
思ったとおりの
すれ違い
【水溶性】
文字が滲むのは
涙のせいね
水性マジックで
君を呼べば
夜が溢れる
【鍛える】
あなたは鉄棒の逆上がりが
上手にできないからといって
手の皮が破れるほど
しがみついて
握りしめてはいけません
鉄棒は汗で錆びて
あなたは淋しくて
逆上がりしたくなるだけです
【逆鱗】
逆なでした冗談は
嘘ではないから
厄介だ
真実みたいに
輝く嘘は
皮肉に彩られ
鱗に尾鰭をつけらた龍は
ストレスを溜め込んで
いずれは
雷を落とすだろう

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騎乗体

騎乗体
馬が鬣を靡かせると
私の空白が埋まる
摩擦する風を受け止めながら
まだまだ走り出す
熱風に怯まず
身体ごと曝された
狂態が踊り出す
発火する魂は
新しい炎を生み出し
空白は燃やされ
女は叫びながら
刹那を駈ける

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し 音にだしたら黙り込む
四 数にして見りゃニで割れる
紙 インクが無くちゃ白いまま
死 白い布巾が顔を隠す
ともすれば
詩 長い一行の地平線

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言葉

言葉
愛する人よ
鏡を見ずに私の方へ振り向いてください
月光があなたの顔を照らすとき
私は最初で最後の言葉を伝えることができるでしょう
でも雲が残酷に月の灯りを消したなら
私は黙ってあなたに抱かれに行くでしょう
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じゃあね

じゃあね
捨ててしまいたい
あなたとお揃いのペアリング
忘れてしまいたい
私だけを映していた瞳
封じてしまいたい
色とりどりのラブレター
燃やしてしまいたい
あなたまみれの日々の私
送り届けたい
配達人が間違えて
隣のポストに入れた
手紙を
ひとことだけ
じゃあね
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闇の告白

闇の告白
くちづけという名の枷で狂わせて
滴る雫 溢れても離れず離さず
絡まった舌 噛み切れるように愛しても
尚余りある激愛の渦に
我 狂女となりて
狂人廓(くるびとくるわ)で
あなたを待てば
吐息は罪に
忘却は彼方に
千夜一夜の夢現は
闇への餞 極彩色に

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