布団

布団
慈しむような嘘で
温められ
抜け出せない私を
抜け殻にした
快楽部屋の牢獄
私は私の夢を
毎夜咲かせては
腐らせ
咲かせては
腐られ
干さなければ
ならなくなったほどに
悪夢は染み付いて
今も まだ
一緒の布団で
眠っている

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ミエナイチカラ

ミエナイチカラ
見えない引力で二人は
繋がっているのに
春嵐の花びらにかき消されて
彼は貴女に気づかないで
今日も明日も明朝体を
打つでしょう
互いがS極とN極ほど
正反対でありながら
強く惹かれ合う
その磁力に明朝体もペンもなく
彼の目には裸の女が独り
言葉なく真夜中過ぎの
引力に抱きしめられるだろう

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小詩  四編   3

小詩 四編  3
【目眩】
嘘のような誠が
まことしやかに
うそぶいて
三億年から
地球を廻す
嘘が誠で誠が嘘で
愛と正義が見つからなくて
兄弟人類
まことしやかに
目を回す
【電灯】
僕の中に
ホタルの下に
君の芯に
灯りが点ると
よその子供が
たくさんよってきて
笑顔の明るさ
四百ワット
【眩しい】
あなたの鎖骨から流れる
一滴
【指輪】
あなたが
薬指に噛んだ
歯形が
痣になったまま
私を赦さない
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こぶし

こぶし
五分咲きの こぶし一本(ひともと)山裾に 握りし冬を虚空へ放つ
こぶしより放たれた冬の塊(かい)ひとつ 溶けて空の泡となる

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母子像

母子像
私がお腹の中にいるときに
母が一枚の
絵を描いていた
柑橘系の匂う顔彩を
指で取っては
子宮の辺りに
私の表情を笑顔に描いた
私がお腹の中にいるときに
母は一枚の絵を描いた
自分の骨を砕いては
白いテンペラ絵の具にして
私の肌を色白に染めた
けれど
それはとても酸っぱい記憶
私は檸檬と母の骨を
かじりすぎて
血塗れの罰を受けた
罰に泣き濡れる私を
産湯で洗って
母は初めて
自分の絵が最高傑作だと
微笑んだ
母親はお腹に子を宿しては
母子像を描く
その腕(かいな)に
おしっこを漏らしながらでも
飛び込んでくる
乳飲み子の
夢みながら

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青空から涙

青空から涙
青空を折りたたむような
終い事に追われ
広げた風呂敷も
今となってはたためない
こびり付いた友情を
優柔不断と殴り書き
サヨナラ
と 一言書いた紙飛行機
青空に向かって
飛ばしてみたら
たちまちの曇り空から
大粒の涙が降ってきて
私が慌てて折りたたんだのは
あなたからの
最後のラブレター
だったのかもしれない

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ひとこと

ひとこと
私を見守ってくれた人
私を泣きながら憎んだ人よ
頑なにして繊細
潔癖で完璧主義
口下手で手も握ってくれない
多くの人に慕われても
孤独だと言い張る
リア友よりもネット友人に愛を売る
上辺だけのおべっかと愛想笑いの中
生き抜いてきた人よ
そんなあなたをずっと温もりが伝わるまで
抱きしめてあげたかったのだけど
生憎私は生まれながらにして無神経
厚顔無恥は得意技
あなたを見つめ続ければ被害妄想も関の山
歩み寄れば喋りすぎ
あなたに本当に言いたかったこと
(もう 我慢しないで泣いてもいいんだよ)
って素直に言える可愛い女になりたかったの
たったひとこと
たったそれだけ
あなたに言いたかった
私は来年空に還るかも知れないけれど
いつか思い出して欲しい
そう
例えば来年
菜の花が黄色く色づく頃にでも
あなたを愛していたことを

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しみ

しみ
私たちは言葉を蹂躙する
無形の言葉を注ぎ込み
器の中にシロップを混ぜる
ベッドの上の揺すられる裸婦
握ったシーツに手汗が沁みゆく
(汝 姦淫する事なかれ)
泉に指を差し込こみ呪文を囁くと
秘密の扉は海底から開かれる
あなたが満ちる
頭が白濁する
戒めがしみこむ
(汝 姦淫する事なかれ)
蝋燭が戴冠する炎に過去のフィルムたちが
セピア色に染まってゆく
蝋はしみこむ
炎は続く
私を溶かして透明にする
声も指も涙も嘘も
絶頂の哀しみに身を浸す
(罪なき者は この女を石にて打て)
私の五臓六腑にしみこんだ炎は
一夜の夢の灰となる
私は夢の残骸を拾う
ショーツの底に溜まった苦い潮
戻れない女の性(サガ)
(我も又 罪人なり)
私たちは言葉を蹂躙する
過ちの芳香(におい)
心裏腹 体が覚えた逢瀬の
うれしみ
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私の目の前に川が流れていた
多分物心ついたときからだったとおもう
十三才のとき赤く染まった私の体内(なか)から
流れる水をみた
(あの川の向こう側へいきたいな)
なぜかそう思えば想うほど その日から
両親を殺さなければいけない気がした
十八才の時父親に刃物を向けたのは
水の流れが逆流するような
同じ血を持つ二人の
悲劇性だったのかもしれない
(あの川を越えるためにこの男を切り倒さなければ)
私は歪な筏を早く作ってでも
川の向こう側の風景が見たかった
シネ という他力本願の寺にある山水
コロセ という自力本願の寺にある鉄砲水
青い呪いは逆巻く怒濤の飛沫に
父の血清は蝕まれ 視界は濁り
こめかみの動脈瘤は耳から赤い水を垂れ流し
老木は還暦の波紋の年輪を残して倒れた
川の向こう側には
生と老いの悲しみが
一掬いたまっていた
水 一救い
そのてのひらの泉に映っていたのは
ギラギラの眼 昂揚した顔で
笑いながらナイフを向けた
愛娘
あぁ 川は流れ続けるのだ
川は
川は

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十六夜の月

十六夜の月
月夜見という
貴女だけの昔の神を知っているか
冥界を支配し
夜を静寂に帰し貴女の寝顔を細く強く照らして
月光で髪を梳くあの神だ
貴女の為だけに詩(うた)い
姫と蛇を
使い分ける卑怯な
アオイケダモノ
闇の属性 あの神だ
だが
あなたは神と呼んだ男は鬼だったのだ
奴を喚ぶ声は今は闇に溶けて聞こえなくても
覚えていて
月夜には月詠みの詠と指を愛でた猫
鬼の指を透明にて涙を隠した白い猫よ
自ら鬼の名を名乗り鬼を愛した貴女が天女
月夜見はただのフクロウ化けた鬼の二つ銘だ
されど
奴は言った
信じているから手放すのだ
貴女には輝く未来があるのだと
お互いの手首の傷口の言い訳を
知らない月に知らせなくてもいい
僕たちの七年間を知らない嘘月に媚びなくていい
おいつめたのは神の名を持つ黄泉使い魔
誘ったのは鬼女の名を持つ吉祥天
もし今
貴女が来るべき未来に震えているなら
十六夜に雨 激しく
交わらない二人
胸を射抜かれて死んでみようか
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