小詩    四編

小詩  四編
【一人称】
粉雪 
ひとひら
私だけが
掴んだばかり
手のひらの中
温度差
一人称
【石鹸】
年末年始
大掃除で大変ですなぁ
バブルがハジケて以来
日本もクリーンに
擦らなければ
風呂が
いつも赤出汁ですぜ
旦那様
【排水管】
私の昨日の愚痴が漏れて
飛沫になって
一時はどうなることかと
思ったけれど
三寒四温の寝正月
ちょとくらいの
憂さ晴らし
流してみても
壊れないよね
【翼】
あなたの耳に
染み込ませるように
この色褪せた詩集を
朗読すると
あなたの鼓動が
高揚して
熱気に溢れ
瞳 潤い
乾いた本は
オアシスを巡り
泉から
羽ばたき飛ぶ
言葉の翼

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伝承

伝承
舞い落ちる枯れ葉のように
散りゆく花びらのように
ぬるい真昼の中に生きても
少しずつ 少しずつ
褪せていく人
忘却の底辺に押し込めた人
欠けてゆく私の命の中にも
今でも響く誰かの残声に
溢れる涙と
彩られた言葉たち
父親のてのひら
母の子守歌
友の激励は
まるで月の満ち欠けのように
細波を呼び寄せては
遠い胸の海辺に足跡を残して行く
残される孤独に命はざわめいて
鼓動が零れて
ぬるい昼間
こうしている間にも
地球から数人が消滅するが
彼らは鳴り止まない言葉を
人伝に接続させてゆく
十二時を指した時計台
授業終了のチャイムは鳴り響き
生きとし生けるものの営みを奏でて
いつしか人は棺に言葉を納める為に
静かに降りてくる夜を待つ
全ての人に終わらない歌
焼かれない肉体が最期に語る眠らない詩(うた)
退屈な真昼に
風に舞い落ちる褪せた枯れ葉が
やがて来る新芽に全て預けて
散りゆく

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小詩   二編

小詩   二編
「裏側」
文字を地球の裏側へ運び
漢字をラテン語に
すり潰す
流暢なスペルで
赤薔薇の花言葉を
語りかけるが
女は脚を組み替えて
立ち上がると
ピンヒールの下には
日本語が身動き取れずに
カタカナに救いを求めて
言葉が裏がえる
「崩壊」
箱船に乗せられなかった生き物たち
ソドムを振り返った女
リリスの入れ知恵の寿命
神の怒りに触れた巨塔
傲慢な詩人の禿びた鉛筆
折れて倒れた先に樹海
自堕落には十戒
真夜中の濡れ枕には
恋の崩壊

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接吻

接吻
一室が3畳
病室のカーテンに君を閉じ込め
ピュア・プアゾンの香を秘めた
その胸に触れながら
そっと引き寄せた
寄り添う胸の狭間
鼓動強く鳴りやまず
色は濃さを増し
半開きのサーモンピンクの唇から
零れる視線から
奪われることを
哀願する君の姿態
喉の奥の嵐を
僕の唇から君の体内(なか)へ
想いごと押し込めた
言葉のない
午後の病室
苦い液
鬩ぎ合う甘い蜜
悲しみの雫一粒
満ち充つ「病の味」

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深淵なる夜の淵で

深遠なる夜の淵で
深遠なる夜の
深遠なる夜の淵で待っているものは
静寂ばかりとは限らない
世界の同時刻に三人の僕が
寒さ凌ぎの湯を沸かし
沸点まで込み上げる感情に涙している
深遠なる夜の
深遠なる夜の淵で聞こえるものは
冷蔵庫の電音だけとは限らない
眠っている卵
明日食べる三合の米
日本の裏側からやってきた魚たちの瞬き
土の中の里芋の生々
隣り部屋の愛すべき老女の寝息
深遠なる夜の
深遠なる夜の淵で訪れるものは
孤独だけとは限らない
三日月のように笑う君の口角
僕を飲み込む器を持つ聖女のような性女
小さく漏れる吐息の破片(カケラ)
のばされる事を赦されないシーツの皺
果てを知らない欲望の闇
深遠なる夜の
深遠なる夜の扉の向こう側に見えるもの
小さな一喜一憂
限りある命の芽吹き
君のカラダ二つ
僕の心(アイ)ひとつ

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おじさん万歳

おじさん万歳
「ビジネスコート」 
駅前の通勤ラッシュには
きまってビジネスコートをまとった
おじさんが背を丸くして
僕の前を通る
夢はあるのだろうか?
地味に働いて日々を凌ぐ
僕はそんな大人にはなりたくない
「平凡が一番なのよ」
と母さんは言う
平凡って何ですか
自分の利益や利潤だけで
友人をつくることですか
出世するために人を裏切ることですか
ビジネスコートを着たあのおじさんたちも
僕と同じ時代があったはず
僕と同じことを考えていたはず
僕が怖いのは
いつかあのビジネスコートを着た
おじさんのように
背を丸めて生きること
**********
僕の頭が若さと青さで彩られていた時
見えない上司(こわいひと)の罵声にペコペコと
頭を下げる父を見て作った詩(わかげのいたり)
尻の青い若造だった時代が今頃
引き出しに一番奥からクシャクシャになって
顔を覗かせた
自分もビジネスコートを着て
早十年年が過ぎようとしている
丸めた背には
メイクと上役の悪口ばかりに凝る
OLへの小言とか
媚を売らなければ円滑にまわらない上下関係とか
期限に間に合わない見積書が眠る机とか
敬語が使えないくせにやたらメカに強い新人社員とかで
おじさんの頭は大パニック
そしてとどめに
積載量オーバーのトラック並みに膨れ上がった
結婚詐欺の女房の体への拒否権のない夜のお勤めやらで
おじさん背中は、
だんだん萎んでいきました
まさに
世界の中心で
「バカヤローー!!」を叫びたいのは
他の誰でもない
おじさんなのです
かつて
おじさんは
怪傑ライオン丸が好きだった
おじさんは
月光仮面が好きだった
おじさんは
仮面の忍者赤影が好きだった
だから世の奥様方
あなたたちが施しなさるほんの少しのお小遣いを
チョビチョビためて月に一回だけせっせと通う
コスプレパブのオネーチャンのところに
ハッスルしに行くことを
「相変わらず、仕方ないわねぇ〜」と
笑って赦してあげてくださいませんか
だっておじさんは
いつまでたっても「スーパーヒーロー」に憧れる少年なんですから

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スポイトとスポットライト

スポイトトとスポットライト
白紙が彩られるように
暗闇に灯りを灯るように
色鉛筆で自分の名を描く
顔彩が
滲み出て広がり
転がり続ける水彩画
それが私の詩
言葉足らずだけども
私だけの紙上の詩(うた)
誰も歌えない
私だけの紙上の音階
今宵もオペラ座で
クリスティーナの
真似事を
怪人の仮面を外して
傷だらけの
醜い顔に
ソプラノの
くちづけ
寓話にして
舞台で演じ喉を裂けば
最期の演出に
溢れ出る血潮
鳴り止まない
喝采
あなたに届きますように

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知恵の実

知恵の実
眠っていたら
夢の中で
父親にどやされた
その罵声と説法で
レオパレスを買いに行った
新居の扉を開けると
真新しいパソコンから
ソクラテスが弁明を
アリストテレスが聞いていたが
しみったれた語り合いが
嫌になったダンテが
神曲という新曲を
ヒップホップで歌い出したら
超人たちは全員
ウィルスに犯されて
デリートされた
誰もいなくなった部屋から
ニュートンが林檎にかぶりついて
なかなか私を
引き離しては
くれそうにない
知恵の実を
かじり続けても
未だにアダムとイブの
痴話喧嘩だけは
解けないらしい

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憎悪

憎悪
はじめから やり直します 人生も そう言えたなら 要らない包丁
金ばかり 送ってくれる 弟よ 私が親を始末するから
不幸者 不合理 理不尽世の中を 滅多刺しにした 嵐の夜明け
黙す老い 語れる老いの逝く道を 徒花が照らす最期の娼婦
拾っては 捨て行くさだめの詩人なら 奈落の底まで 彼岸に埋めよ
嫌いだよ 地雷のような罵声すら あげれなくなる 父母の逝く道
言葉とは 都合の良いこと 限りなし 美しくもあり 醜きもあり
さようなら 頭に烈火の彼岸花 朱き炎は鎮魂を知らず
業深し 供養供養の毎日で 子殺し許せよ 明日は親をも
父母の 産むだけ生んだ 家政婦は 芋をかじり 死に逝くさだめ
詩人など 片腹痛い戯れ言を 思い込ませて散った徒花
枯れ薄 手招きしている 黄泉の国 我を想いて返り見よ

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桔梗

桔梗
廃屋に桔梗が二輪
植えた女は井戸の中
紫の花弁のかたちが
二つの笑顔を描き出す
秋の夕日の蜃気楼
陽射しの中にちいさな輝き
茜色が映える紫の星花
咲き乱れて花は散った
植物のままの
貴方を残して
寂れた王国に
今年も二輪
桔梗が寄り添う
世間が指で
蕾を押すと
パチンと泣いた
叫んだように
裂けて
壊れた

詩と思想12月号(斉藤選)入選作品

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